8 禁忌三六ヶ条
草木というものは「地気の濁り」というものを自然に持っているものであるが、その「地気の濁り」を取り去り、清らかな姿にするところに未生流挿花としての意義がある。この天と地という概念が生じた時、清い気は昇華・上昇して「天」となったが、いっぽう濁った気は「地」に下降したという。よってこの地上には「地気の濁り」があるといわれている。そのため草木は塵芥清濁の区別なく地上に生じ、例えば未生流挿花で禁じられ、忌み嫌われる禁忌(本来あるべきではないもの。美とはいえないもの。)の姿を持つものもある。よって草木の濁りともいえる禁忌をなくして清潔なものにするところに、未生流挿花の意義があるのだと前にも述べた。この自然に内包する「地気の濁り」を取り去って、挿花全体の姿を清潔にすることは、草木に「陰陽和合」そして「虚実」の理を備えることに通じるものである。
花を挿ける上で禁じられ、忌み嫌われているものとしては三十六ヶ条の禁忌が示されている。禁忌が地気の濁りによって生じたものとし、この「地」の数九に「四季」の四を掛け合わせて、三十六ヶ条の禁忌が出来たものである。禁忌とはこの大地の濁りと捉えることができ、その禁忌を取り去って、風流をもって挿けるところに未生流挿花の本質がある。これは我々自身において、内にある醜なるこころを浄化し、また真にある理というものは何かを追求することが肝要であるという道につながっているものであるといえる。
なお、刺のある草木が、呪い殺す調伏のものとして禁忌に挙げられることがある。刺のあるなしに関わらず、草木というものは、「地水火」つまり大地・水・光の恵みで育ったものである。この「地水火」の三つを現すという「三光の枝葉」を備えたならば、刺のある花でも挿花として用いてもよいとされている。この「三光の枝葉」とは、大中小の葉のことである。いずれにしても刺は取らないといけないが、薊は刺をつけたままでもよいともされている。以下に禁忌三十六ヶ条を記すものとする。
禁忌36ヶ条
1.見切り
枝のもつれ合うことをいい、筋道が通らないものとして禁じる。
2.十文字
体の枝と交差して十文字になる枝をいい、礼を欠くものとして禁じる。
3.刺天枝
根本から真っ直ぐ曲がりなく天に突き刺した枝のことで、天に逆らって和合しない故に禁じる。
4.刺地枝
真下に下がって枝先が上ることのないもので、地に逆らって和合しない故に禁じる。
5.刺人枝
正面に真っ直ぐ突き出した枝をいい、人を突き客に向かって無礼である故に禁じる。
6.掛物を刺枝
掛け物を書いた者に無礼であるため、掛け物に向って出る枝を禁じる。_
7.天蓋枝
枝が全てうつむいている姿をいい、成長の姿がなく和合がない故に禁じる。_
8.丈競
枝先が同じ長さにそろうことをいい、枝先に長短があってこそ和合であり、和合しないものは死物であるので禁じる。_
9.両指
左右の手を広げたように同じ位置から左右に同じ勢いの枝が張り出すことをいい、人の礼がなき事に似る故に禁じる。_
10.両垂
手を左右に下げたように枝がしなだれている事をいい、死活の気が正しくない故に禁じる。_
11.連々枝
四方に枝が下る状態をいい、和合ない故に禁じる。_
12.三ツ真
東西南北の方位に背く枝であり、自然にそわない故に禁じる。_
13.害身
体より出る枝が、その体を見切る枝をいい、我自身害する故に禁じる。
14.箭
陰陽の隔てのない枝で、これを禁じる。
15.抱枝
両手を前に出して物を抱えたような姿の枝で、これを禁じる。_
16.花器ずれ
花器の縁に枝葉がかかっているもので、これを禁じる。
17.貫通枝
体の後ろを通り、体を見切る枝で。これを禁じる。
18.肱金枝
ひじの様に曲がった枝をいい、これを禁じる。_
19.弓箭
用の枝が体の幹の半ばから直角に出ているもので、弓で矢を射る姿に見え、客に対して不敬であるので禁じる。_
20.顧枝
顧みて他の枝を見切るもので、これを禁じる。
21.窓
足下に隙間の空くことをいい、これを禁じる。
22.片箒
片方に小枝の片寄ることをいい、万物片寄ることは自然でないので、これを禁じる。
23.捻枝
縄のようにねじれるように見える枝をいい、姿が正しくないので禁じる。
24.剣葉
葉物を挿けるとき、正面から葉の表面がまったく見えないことをいい、葉の縁が剣を向けてるように見えるのでこれを禁じる。
25.片指
一方に偏って出る枝をいい、これを禁じる。_
26.天蓋花
花がうつむいた状態をいい、憂を含み、活気がないので禁じる。_
27.鏡花
鏡を掛けた如く、花が真正面に向くことをいい、これを禁じる。_
28.五徳花
三本足のある五徳のように、三か所に花が咲いた状態をいい、これを禁じる。_
29.理屈花
花の大きさに変化のない状態をいい、陰陽の変化に乏しいので、これを禁じる。
30.抱花
花が向かい合う状態をいい、その姿が風雅でないので禁じる。_
31.花隠
見ても全く見えない花は、これを禁じる。
32.段々花
体・用・留と同じ段で階段状に並んだ状態をいい、変化に乏しいので禁じる。
33.猪目花
前を向いて三つの花が咲いた状態をいい、このようなものは風雅でないので禁じる。_34.色競
種々の草木を取り混ぜて挿け、花の色を無造作に使ったものは、統一せず和合しない故に禁じる。
35.色切
上下に白い花を使って中に赤い花を使うと、赤い花で白い花を区切ってしまう。故にこれを禁じる。花の色を取り混ぜて使う時は、上から白・紫・黄・紅・赤の順に挿ける。
36.見え隠れ
顕れることもなく、また隠れることもない中途半端なものは禁じる。