9  葉組の事
 未生挿花に、草花水草の葉を組んで挿ける葉組がある。この葉組においては「二季の通い」を備えることが肝要である。「二季の通い」とは、陰が陽に変化し、陽が陰に変化し、この「陰」「陽」が尽きることなく変化する様である。この「二季の通い」を葉組で表現するのである。
 陸草には株を分け(株分け)、そして水草には魚道を分け(魚道分け)、また木物には谷間を分け(谷間分け)て性気の通いを挿入する。つまり草花を何株かに分けて挿け、その分けられた各々の株が互いに呼吸しあうように性気を持たせるのである。数多く挿ける時には、花を中心として株を作り、そして長短・高低・大小と陰陽和合を整えて挿ける。
 また、陸草の葉組においては七枚の内に界葉を入れ、日裏(表)を前に見せて株を分けて挿ける。この界葉は重要な役葉である。子・丑・寅・卯・辰・巳と「陽」の刻から、七つ目の牛の刻には「陰」に変化する。万物は七つ目に大きく変化するといわれるが、この陰と陽の境を成す七つ目の葉を界葉とする。すなわち、この界葉によって株を分けて「二季の通い」を備えて挿けるのである。
 未生流では、一本の立木の姿・一株の草花の姿に、それぞれ自然の美を求める。つまり根を違う草木は互いに交じわることはない。よって、根を違うものは先程述べたように株を分けて、また枯葉・きばみ葉に至るまで界をとって、器に応じて葉組みを成すのである。以下に草花水草の出生に応じて「二季の通い」を説明する。
 万年青に「七葉の出生」というものがある。万年青は七枚目の葉が生じて、ようやく花が開く。そして八枚目の葉が生じた時に、最初の一葉は朽葉となる。風囲いの葉・霜囲いの葉・実囲いの葉・砂囲いの葉・泥囲いの葉・黄葉・枯葉に至るまで、七枚目の葉に界をとって株を分け、季節の本性である「二季の通い」を表現するのである。
 杜若は、長短の葉をして葉先のかぎを向き合わせ、中に短く芽ふき葉を組んで挿ける。そして葉に添わせて花を入れ、また花の後に太刀葉・冠葉と長葉の追葉を挿けていく。露受け・露流し・露止めの冠葉、水吸い葉、水切りの葉に至るまで、七枚目に日裏をみせて界をとる。さらに葉数多く挿けるときは、水切りの葉を挿けて魚道を分けることで性気を通わせる。
 河骨は、地下茎より生じた葉(角葉)が水上に現れて、半開・開花となり、そして朽葉となる。なお水面で開き浮いた状態にある葉が、水が減ったときには水面と平行になることがある。この葉を水面を叩く様をもって「水たたきの葉」という。この「水たたきの葉」を始めとして、莟・半開・開花をあしらい、開葉・半開の葉でもって界をとり、角葉でもって株を分けて「二季の通い」を備えるのである。
 蓮の花一輪は、一葉の浮葉と、そして水上高く開く一葉をもつ。葉は地下より水面に巻葉(陰)の姿として生じ、伸び上がるとともに半開(和合)・開花(陽)の姿を現す。いっぽう花も莟・半開・開花と陰・陽・和合の姿をみてとれる。蓮葉の円形は「天円」に等しく、そのため和合を成すときは半開の葉でもって「地方」の気を備える。蓮の花は陽気に進んで満開となり、陰気に向って凋んでいく。和合をもって開いた花を高く挿けて陽とし、いっぽう莟を低く使って陰とする。そして、巻葉の使い方に応じて魚道を分け、ここに性気を通わせるのである。また蓮の花に三腑を備えるという。三腑とは天・地・人の三才であり、心眼でもって天・地・人という三腑の気を蓮の花に通わせるのである。この一輪の蓮の姿に「三腑を備える」ところに、未生の本質が込められている。
 女郎花は諸草と違って、花と葉が同じ年に生じるのではなく、今年に葉が生じれば、明年に葉の跡に花が生じるという出生をもつ。この今年に生じた葉のことを、大根の葉のように大きい故に「大根葉」という。花と葉の株を分けて、そして界を成して「二季の通い」を備えて挿けるものである。
 以上のように、すべて草花水草の花葉に和合をもって「二季の通い」を備えるのである。季節寒暖の和合に従って草木を愛し、そのこころを感じ取る。ここに未生流挿花の本意がある。
 「二季の通い」とは七つ目で陰陽の変わり目が起き、この陰陽が尽きることのない様であると述べたが、この「二季の通い」が巡りゆく中で、季節・五行十干も変化していく。一日は七の刻をもって陰陽変化する。「子」の刻は「極陰」として陰が最大になる中にあって陽気の兆しを萌し、また七つ目の「午」の刻は「極陽」として陽が最大になる中にあって陰気の兆し萌す。「子」の次の刻である「丑」の刻に陽気がようやく長じ、その七つ目の「未」の刻に陰気が長じる。そして「寅」の刻には陽気が定まり、七つ目も「申」の刻に陰気が定まる。「卯」の刻に陽の位となり、七つ目の「酉」の刻に陰の位となる。「辰」の刻に陽気が長じて、七つ目の「戌」の刻に陰気が長じる。「巳」の刻に陽が盛んとなり、七つ目の「亥の」刻に陰が盛んになる。このように陰陽十二支が消長して巡りゆく事は、円というものに端がなく、永劫に続くものと同じであると捉えることができる。
 また一年も七月目にあたって陰陽が移り変わる。そして月もまた同様である。一日より七日までが「陰の一廻り」であり、七日より十三日までが「陽の一廻り」となる。月日ともに変わりゆく七月七日は厄日である。人生では、生まれてから七歳を陰の初厄とし、十三歳を陽の初厄とする。そして十九歳・二十五歳・三十一歳・三十七歳・四十三歳・四十九歳・五十五歳と厄が続いてゆき、六十一歳で本卦大厄となって、また元に戻るのである。
 ちなみに季節の五行とは、春七十二日、夏七十二日、秋七十二日、冬七十二日と、土用七十二日の三百六十日をいう。土用とは、春と夏・夏と秋・秋と冬・冬と春の間に、それぞれある十八日を土用としてあてたものである。また季節の十二支とは、子(旧暦十一月)丑(一二月)寅(一月)卯(二月)辰(三月)巳(四月)午(五月)未(六月)申(七月)酉(八月)戌(九月)亥(十月)をさすものである。