2  天地人三才
 天を現す円と地を現す方形とによって割り出された、二等辺三角形の鱗を上・中・下の三段に分け、上部の高き枝を天の位として「体」と名付け、下部の低い枝を地の位として「留」と名付け、この体と留との中間の枝を人の位として「用」と名付ける。これを一瓶の花として応用し、「体・用・留」という三才の格を作るのが三才格である。
 この三才格に対して、五行説に基づく五行格がある。五行とは天地の間にとどまる事なく循環する五つの大気(元素)である木・火・土・金・水のことで、この五つの大気から万物が生じたと考えられている。三才格の「体」「用」「留」に「相生」「控」の二つを加えて、万物生成の元となる五行を現したものである。また、この五つの大気(元素)はそれぞれ五色・五方等に対応している。
 「伐りたる草木に天地人三才の霊妙を備えて」「出生の本姓を失わず天円地方の理に随い挿し上げたる処は即ち陰陽三才五行ことごとく備わる」と伝書にある。つまり自然の草木がもつ出生を守り、そして天円地方によって割り出した花形に収める。ここに、自然の出生と花形の調和、虚実等分の理があるのである。老子の言葉に「一、二を生じ。二、三を生じ。三、万物を生ず。」とある。これは「太極から両儀が生まれ、両儀から三才が生まれ、天地人の三才があって万物が生じる」という意味である。この天地人を三才というのは「天に運動の才があり、地には生成の才があり、人には考慮の才がある」ことからくるものである。
 三才格の寸法・ため方として、先ず天の位である体は、出来上がりの寸法が寸渡の口より、寸渡の高さの二倍半程度となるように寸法を定め、寸渡の口から真ん中を中心に上下に一握り程度を弓形にためる。そして挿けた体の姿の枝先と根元が、垂直線上となるようにする。人の位である用は、用の枝の先端が体の真ん中の位置にくるように寸法を定め、真ん中より少し下あたりの位置をためる。主位の場合は、用の枝先が敷板の左前角の方向へ向かうようにする。また地の位である留は体の長さの二分の一程度に寸法を定め、寸渡の口から寸渡の直径の寸法あたりの位置をためる。主位の場合は、留の枝先が敷板の右前角の方向へ向かうようにする。
 五行格は、三才格の体・用・留の役枝に、相生と控の二つの枝を加える。相生は体より少し短い目の寸法に定めて、体の枝が一番よくたまっている部分まで体に添わせて、そこから徐々に離していくように挿ける。そして挿けた相生の枝先が、体と用を結んだ線上に位置するようにする。この相生は、添うて添わずのものとする。つまり体に添うようで添わない、しかしやはり体に添っていく。この姿をもつものが相生である。また、控は留より少し短い目の寸法に定め、留のため口より少し上からためる。主位の場合は、控の枝先が敷板の右後角の方向へ向かうようにする。
 体・用・留の三つの役枝でもって天地人を現す三才格に対して、五行格は相生・控の枝を加えて木・火・土・金・水という万物生成の源である五行を現すものである。木は留、火は用、土は体、金は相生、水は控と、五行格の役枝がそれぞれ五つの元素である木・火・土・金・水にそれぞれ相応している。
 天と地は交感・交合を繰り返し、天上では太陽(日)と太陰(月)と五惑星が生じ、いっぽう地上では五元素が生じて輪廻・交感を繰り返し、様々な物質が生じていったといわれている。またこの五行には、五行相生と五行相剋という二つの働きがある。木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生ずるという、五元素が互いに相い生じるという考えが五行相生である。木によって火が燃え、火によって生じた灰は土に還り、土は鉱物である金を生み出し、金属は冷えることで水滴である水を生じるということである。また五元素は互いに生じ合う一方で互いに剋し合う、これを五行相剋という。木は土の栄養を吸い取り、土は水を堰き止め、水は火を消し去り、火は金を溶かし、金属である金は木を切り倒すということからくるものである。この五行相生と五行相剋という五行の働きを知ることで、体・用・留に加える相生と控のことを知ることができよう。