5  七曲
 七曲とは、天地人三才の鱗型に納まらず、それより流れ出た枝の扱いである。真行草の三体九姿という基本の花形から、一本の枝が変化をもって長く流れ出した姿で、この流し方の基本的なものを大きく七つに分けて七曲という。自然の枝ぶりで面白く変化したものを生かす意味から、風流な枝は切ってしまわず臨機応変に、その流れ出た枝ぶりを余勢として生かして使う挿け方であるといえる。
 この七曲には、「体流し」「体後添流し」「体前添流し」「用流し」「用添流し」「控流し」「留流」とある。この七曲で挿ける時には、ひとつの枝に曲をつけ変化をつけるので、残りの枝は余り曲をつけることはしないで、そのひとつの曲枝を強調するように使うようにする。以下に「七曲」の詳細として基本的なところを述べるが、風流な枝を切るには忍びないという考えから、この「七曲」があるということを失念してはならない。以下に述べることは基本のものとして、その風雅ある枝振りによって、挿ける花の姿を変化させることが大切である。
 「体流し」は、体の枝が後方より大きく曲をもって流れていくものである。このとき、体の枝そのものが流れ出るものの、その分かれ目にも枝があって、仮体すなわち仮の体として、体の格をもって立ち上がるようにする。この仮体は体の常の位置に定め、この仮体と体流しの枝との分かれ目は、仮体の枝先より五分の一程度の位置とする。また体前添は、体が右後方に流れるため、左右のバランスを取りながら、重心が一方に傾かないようにする。次に、用は用添を入れて肉づきをよくする。また留はやや短くして、常の位置に挿け、深くためずに体の流し枝を受けるような感じで挿ける。さらに控も、短めにした留とのバランスを考えてやや短めに定める。このとき、相生は常の通りである。
 「体後添流し」は、体の後添の枝が大きく曲をもって流れていくものである。この体後添は、体の枝先から上三分の一程度の位置から曲をつけて大きくためて流す。そして、その枝先は上部に向けて勢いづけて挿けるものである。次に用は常の通りに、もしくは少し短めに定めて、左右のバランスを取りながら、添の枝でもって肉づけをする。また留は枝先を短くし、軽く受けるような感じでもって、少し前に振り寄せて挿ける。体・体前添・相生・控は常の通りである。
 「体前添流し」は、体の前添の枝が重なることのないように用の上を通って、大きく曲をもって流れていくものである。体の枝は常の通りとし、曲をもって流れ出る体の前添は、体の胸(体の上四分の一程度)のあたりまで体と同一にため、その先は反対の外側のほうに折り返して十分にためる。このとき体後添は、左右のバランスがとれるように考えて挿けるものである。次に、用は常よりも短く控え目に定めて、用の先を少し手前か向こうに振るようにする。また相生も常より小さくし、体前添の流し枝と交差しないようにする。留は、体前添の流し枝とのバランスを考え、少し張り出して挿ける。また控は、用を低くしているので、これに合わせて少し常よりも低い位置よりためる。
 「用流し」は、用の枝が長く前方に曲をもって流れていくものである。この流れ出る用流しの枝を、先ず始めに入れる。そして常の用の位置に、仮の用である仮用を軽めに挿けて、前後の添をつけて肉づけする。この仮用と用流しとの分かれ目は、仮用の枝先より上五分の一程度の位置とし、用流しの枝先は立ち上がるようにして挿ける。また、体は常の通りに挿け、留は流し用とのバランスをとるため、あまり下がらないように受け留にする。相生・控は奥行きを付けて肉づけをする。
 「用添流し」は、用の枝が勢いよく伸び上がったものの、その力を奪われて下方へと垂れ下がった状態で用添となり、その次に生じた枝が用の位置に定まったものである。用の下の用添の枝が前方に曲をもって流れ出て、そのまま力強く下方に伸びていく。この枝先の向きは枝ぶりによって変化させて挿ける。用の下の風情のある枝が内側に流れでるように挿けるものであるが、枝ぶりによっては外に伸びるようにして挿けてもよい。このとき、流し枝は「用流し」のときよりも、低い位置(用の上より三分の一程度)のところから用より分かれていくようにする。また体・用・相生・控は常の通りに定めるものとする。そして留は左右のバランスを考えて、左右両方に下がることのないように、受け留として枝先をあまり下げないように力強く枝先を起こし勢いをつけて挿ける。この「用添流し」は、行体・草体を基本とするものである。
 「留流し」は、留の枝が長く斜め前方に曲をもって流れていくものである。体・相生は常の通りに挿け、用は常より少し短めにして、その枝先が立ち上がるようにためて勢いをつける。また、留は常の留よりも長くして流して挿ける。この留のためる位置は、体の枝下から五分の一位と、その足下を長めにしてすっきりとさせる。留が流れるため、用と留との間が抜けて見えることのないように、控は留の分かれ目近くに挿ける。
 「控流し」は、控の枝が体の胴の部分から後方より、大きく留の方に向かって勢いよく伸び、その枝先が留の方に向いた姿のものである。この「控流し」は行体・草体を基本とし、よって用・相生も力強く挿ける。体・用・相生は常の通りとする。そして、留は流しの控を邪魔しないように、前方から小さく短めに受け止めるようにして挿ける。また、控の枝が留の上部後方で、前方に流れるようにして、上から見たときに流し枝と留とが半円を描くような形となるようにする。なお、仮の控は軽い感じにして、常より少し高い位置からためる。控流しの枝は体の後方から挿け、枝を留の方向に向かって前向きにため、先を上に向けて勢いをつけて挿ける。