8 方形体
方形体には、「松竹梅」と「万年青七五三の一株扱い」の挿け方がある。ともに、正月や婚礼の際の花として挿けられるものである。
先ず、「万年青七五三の一株扱い」の挿け方について述べる。万年青は、その緑のすこやかな葉と赤い実で喜びを表し、正月や婚礼の花として用いられる。十五葉を三株に分け、七葉一実、五葉一実、三葉として七・五・三の伝としている。七枚の株は盛んな子株、そして五枚の株は隠居した親株、また三枚の株は将来の発展を期する孫株であり、このように三代が揃う子孫繁栄お目出度いものである。これは陰陽・万物流転する未生の本質を現しているといえる。
万年青の出生は、始めに向かい合って二枚の葉が出て、その中より又二枚向かい合って出る。このため自ずと中から生じる葉が新しい出生葉となる。この四葉は東西南北を指して開いていく四方葉である。またこれより三葉が生じ、七葉になると花が生じる。花は五月頃に咲き、十二月頃には青い実が赤く色づく。七枚で始めて花を開き実を生ずる出生から、実は七枚以上の場合においてのみ使うものである。ただし、万年青七五三に使う五枚葉は、成長途上ではなく、成長後の隠居した親株の意味をもつ五枚葉であるために、この万年青七五三を挿ける時には、五枚葉にも実を使って挿ける。
実の上にあって霜から実を守る霜囲いの葉(体後添の葉)、そして実を風から防ぐ風囲いの葉(用添の葉)、また実を抱えて実を守る実囲いの葉(留の葉)、そしてまた砂・泥から実を防ぐ砂囲いの葉(控の位置)・泥囲いの葉(留後添の葉)は、それぞれに実を守る役目を成している。
十五葉の組み方は、七葉・五葉・三葉の三株をひとつに寄せて、実は二本使って挿ける。先ず、盛んな子株を現す七葉一実(立姿)の株として、先端が丸みを帯びた二年目の葉を、体(時代を担う堂々たる子株の葉)と用に使い、特に広く丸みを帯びた三年目の葉は留に用いる。次に、体と用の間に先端が尖った一年目の葉を体添・用添として出生葉を二葉それぞれ使って挿ける。出生葉は葉の見えない下部分を大きくそぎ取って使うものである。そしてまた、用前添(留が転じたもの)に風囲いの葉を、体後添に霜囲いの葉を、控の位置に砂囲いの葉を使う。この七枚葉の体・用は、「万年青七五三の一株扱い」全体の体・用の扱いとなる。
次に隠居した親株を現す五葉一実(横姿)の株として、先端が丸みを帯びた二年目の葉を体と用に、特に広く丸みを帯びた三年目の葉は留に用いる。また体と用の間に、先端が尖った一年目の葉を体添・用添として出生葉をそれぞれ二葉使って挿ける。この横姿の五枚葉における用は、「万年青七五三の一株扱い」全体の留の扱いとなる。
最後に、将来の発展を期する孫株を現す、三葉(立姿)の株として、体・用・留と若い一年葉を使って挿ける。伝書に実囲い三葉にて根元を包むとされているのがこれである。
次に方形体である「松竹梅」の挿け方として述べる。高位高官の御方の婚礼の際には、注連の伝の松竹梅を挿けると伝書にある。また正月にも、この「松竹梅」を物事の始まり目出度い花として挿けるものである。
この「松竹梅」は薄端または広口を使い、先ず中央に伐竹を二本使って挿ける。長い陽の竹には三節二枝を備えて、先は大斜に伐る。そして短い陰の竹には二節一葉を備えて、先は平に伐る。節の間が短いときは、陽の竹に陽数(奇数)の節と陰数(偶数)の枝を備え、そしてまた陰の竹に陰数(偶数)の節と陽数(奇数)の枝と備えるようにしてもよい。長い竹は陽中陰、いっぽう短い竹は陰中陽である。陽の中に芽生える陰を感じ取り、また陰の中に芽生える陽を感じ取る。つまり、この中に腹籠という視覚では捉えることの出来ない未生の存在をみてとるができる。
そして次に明かり口のほうに、注連の伝の松を挿け、床柱のほうに注連の伝の梅を挿ける。竹を立姿に、松を半立姿に、梅を横姿とし、挿けあげた「松竹梅」全体の姿でもって方形体とするものである。最後に、足下は水引七本を相生結びとし、金は松のほうに、銀は梅のほうに出して用いる。
松は元旦、竹は二日、梅は三日の花である。この三日の花をひとつの器に挿け、三則一に帰する、すなわちこの「松竹梅」は天円地方和合の姿であるといえる。「松竹梅」という、三才の現象を一なる本質に帰せしめる。松は千年の緑を尊み、竹は万木千草に勝れ成長が早く、梅は他に先駆けて咲き三元の冠花とし花中の君子として尊ばれている。昔、中国の晋の武帝が、学問に親しんだ時には梅の花が咲き、学問を止めると咲かなかったという故事から、梅には好文木という名がつけられた。陽の司(松)と陰の司(竹)と三元の冠花(梅)と、これら目出度い花を寄せて挿ける「松竹梅」は、元旦・婚礼ただし高位高官に関してのみ挿け、軽々しく挿けてはならないとされている。