12 臥竜梅 挿け方
臥竜梅は、江戸本庄亀井戸村にあった梅のことで、そのむかし水戸の徳川光圀公が、竜が臥しているようなこの梅の姿を「臥竜梅」と名付けたとものと言われている。この臥竜梅は、幹が地にわだかまり、その枝は垂れて地につき、そこからまた根を生じるような強い勢いのあるものである。
この臥竜梅を挿けるときは、先ず竜の臥したる如き曲のある大きな古木を横姿にして、五徳などで留めて広口の向こうの隅より手前の隅へと振り出して、水をまたいで土に潜っていくようにして用いる。そしてまた、その土より再び立ち伸びた幹を、別の枝でもって挿けるのである。この先の枝は、立ち上がるように挿けてもよいし、また再び土に進む勢いのあるように揉めて使ってもよい。
古木の根元である留のほうを竜の頭に、土より新たに生じた枝のほうを竜の尻尾に見立てるわけだが、この臥竜梅の大木が土に潜っていく様に、竜が臥しているかごとき勢いを見て取ることができる。また、強い勢いのある小枝を使って、竜の四肢や爪を現し、さらに梅の若枝(ヅアイ)を使って臥竜梅の勢いを強めたりとする。
この臥竜梅は、砂利留めにしたり、また飾り石を使って、大広口もしくは大小の広口二個を斜めに置き合わせて挿ける。万年青、水仙、福寿草など応合いの草花を、これに添えて挿けても構わない。
以上、梅の景色挿けとして、南性の梅、北性の梅、臥竜梅の三つの挿け方が伝書に記されているが、その他の梅の景色挿けとして、最後にいくつか挙げることとする。先ず「霞中の梅」は、早春にかかる霞を通して、これから咲く梅の香を感じるような心でもって、春分に白梅を挿けたものである。次に「凌雲梅」は、梅が雲を貫くように立ち上がった姿を移しとったもので、若枝であるズアエを三本特に高くして挿けたものである。また「雪中の梅」は、春を待たずに雪の中に先がけて咲く、梅の力強い姿を現したもので、雪割り草とも呼ばれる水仙をこれに応合って挿けたものである。