2 紅葉龍田川へ散る景色 挿け方
龍田川は奈良県生駒郡龍田町にあり、近くに龍田神社がある。昔から紅葉といえば龍田川を連想するほどに有名である。この秋の龍田川の紅葉散る景色を挿け花として移しとるものである。
花器は台付きの広口で、真ん中に黒白の石でもって龍田川の川を現す。黒石は斜めにとるほど急な川を現すが、この龍田川は清らかな急流であるので、黒石を使って細目に斜めに川をとる。花留は蛇籠二つ三つを用いて留めると伝書にあるが、蛇籠で留めるのではなく景色の添え物と考えて扱うものである。本来、蛇籠は川の流れの急なところに用いて、両岸の侵蝕などを防ぐ設備のことであり、花留として使うときは中に石を入れて用いる。また天石・地石・人石の三石を用いて、三石の飾り石をする。花が主位であれば石は客位に、花が客位であれば石は主位に挿けて陰陽和合の姿にする。
挿け方として先ず、川の向こう天石のところには古木を用いて、葉付の風情のあるものをこれに添わせて挿ける。これは散る姿を現す挿け方であるので、葉は余り多くつけず閑静につけておき、また自然の実の姿でもって法格にあまりこだわらず雅味のあるように挿ける。
次に川の手前の地石には紅葉の盛りのものを正しく法格を守って、虚の姿にして横姿に挿ける。この株は紅葉真っ盛りの姿であり、まだ散るには至っていない風情で挿けるものである。天石の実の姿と、そして地石の虚の姿でもって体用の挿け方とする。
最後に葉を五・七葉と、瓶中や瓶外に日表・日裏を取り混ぜて自然な感じに散らし、紅葉の散る景色を表現する。
また置花器や薄端などを用いて、紅葉散る景色を表現することもあるが、この時も古木扱いにして若枝を姿よく応合って挿ける。紅葉していく植物には楓の他に錦木・いちょう・くぬぎ・けやき・ぶな等多くあるが、楓は紅葉の王として最も尊ばれ、その総名の「もみじ」を己の名前にしているのである。春の桜は諸花の首、そして秋の楓は紅葉の長と並び称し、桜の景色と紅葉の景色の挿け方が原一旋転の巻に記されている。