21 萩 猪の座 挿け方
 「牡丹に唐獅子」「竹に虎」と同じく、「萩に臥猪」と調和するものの例えがある。臥猪(ふすい)とは猪が伏した姿をいうが、この猪が臥猪する床を「猪の座」といい、この臥猪の景色を萩に表現するものである。
 枝先が垂れる出生をもつ萩は、掛籠や掛花器を用いて、横姿にして挿ける。「体・用に花あるを用い」と伝書に記されているように、体と用の格をしっかりと守って、自然の枝ぶりでもって姿を整える。
 先ず、横姿に挿ける用の枝は、下方に大きく垂らして挿ける。また留には花を使うことなく、葉を小さく切って切葉にして茂らせて使う。この切葉を使った留に、猪が臥猪する「猪の座」をとるのである。猪の臥す床となったところには萩の花は散りこぼれ、葉だけが茂った状態となっているものである。よって猪の座とする留には、切葉のみを挿けるのである。
 また、萩に関係するものとして挙げるが、歌枕としてよく詠まれる玉川には六つあり、六玉川とされている。三島の玉川・井出の玉川・野田の玉川・野路の玉川・調布の玉川・高野の玉川の六つで、それぞれの玉川の特徴を現した和歌や浮世絵がある。その中のひとつ野路の玉川は、近江国の玉川(現在の滋賀県草津市野路にある琵琶湖にそそぐ小川)で、別名「萩の玉川」と呼ばれ、旅人たちの憩いの場だったと言われている。そして萩の花の咲く川に、月を投影した様子などが浮世絵に描かれたりもした。「明日も来む 野路の玉川 萩こえて 色なる波に 月宿りけり」(千載集・藤原俊成)など萩の花を詠んだ歌が多く伝わっている。この野路の玉川を移しとる景色挿けも、萩を挿ける風情のあるものとして伝書に記されている。