27 軸付葉物 挿け方 十二ヶ条
 軸付き葉物とは、左右に葉が数枚生じた後に、その中より花軸が出て花が咲くものをいう。この軸付き葉物を挿けるときには、先ず花軸に付いた付き葉をいったん外して葉組みする。そして花軸の根元のところを囲むようにして使って挿けるのである。
 この軸付き葉物として、伝書では十二種挙げられている。萩・芒・檜扇・紫蘭・厳蘭・金鶏蘭・熊竹蘭・檀特草・縮砂・欝金蕉・美人蕉・芭蕉である。以下に詳しく述べるものとする。また、軸付葉物として、現在よく挿ける花材としては、グラジオラス・フリージャ・チューリップ・ストレリチアなどがある。何れにしてもこれら軸付葉物は、葉と花軸をそれぞれ分けて扱う考えでもって挿けるものである。
● 萩(おぎ)
 荻は、五・六月頃に黄褐色の蘇枋色の麗しい穂が生じる。また四季通じて若葉を生じる常盤草で、寒中でも葉が枯れないために、寒芒の別名をもち、冬にも挿けられるものである。
 この荻の挿け方としては、葉でもって形を整えていく。先ず穂を取って葉ばかりにしたものを使って姿を整えて、用として挿ける。次に、葉を全て取り除いた二・三本の穂を、先に挿けた用の葉に添わして挿ける。また体には、直ぐなる立ち上がる葉を先に挿け、これに二・三本の穂を体の葉に添わせて挿ける。この穂も用と同じように葉を残らず取り除いておく。また体の前添として立ちたる葉を使い、穂を体添より留の方に挿け、最後に留の葉と穂をそれぞれ挿ける。
 つまり荻は、穂のない葉ばかりにした軸と、葉を取り除いて花の穂ばかりにした軸とを組み合わせて挿けあげていくのである。
 全体の姿として、穂の数は五本から十七本まで使って挿ける。花の穂がない季節に挿ける時には、水仙・寒菊などを応合って挿ける。また穂のあるときは、応合いの草花を使っても使わなくともよい。なお花器は、その時々に応じて見合わせて用いるものである。
● 芒
 秋に花を咲かす芒であるが、芒には三種類のものがある。花が白色で、穂の丈が一尺位と長く成長し、花の開いたシロススキを真麻穂(ますほ)の芒という。そして花が赤色で、穂の丈が一尺位のムラサキススキを真蘇穂(まそほ)、また花が白色で穂の丈が五寸くらいの、未成長で花の開かない頃のシロススキを政穂(まさほ)という。
 芒の穂出しのときの挿け方としては、荻のときのそれと同様である。葉でもって全体の形を整えていき、これに葉を取り除いた穂を添えて挿けていく。つまり、穂のない葉ばかりにした軸と、そして葉を取り除いて花の穂ばかりにした軸とを、組み合わせて挿けあげていくのである。
 長すぎる穂は、その穂先をつまんで先を指で引きちぎると穂が短くなり、自然にみえて垂れ下がった穂も立ち上がるようになる。葉は葉先のたれ下がったものは、その葉先を斜めに鋏でそぎ上げる。芒の葉は二方向に出るので方向が悪い時には、葉のさやの部分を指先で回して、葉先を思う方向に回すことができる。これを「回し葉」という。また穂の出ていないときに芒を挿けるときは、これに美なる時候の花を応合って挿けるものである。この応合いの花としては、麗しくきゃしゃなものを用いる。花器は置花器や据物を使うものとする。
 また縦縞の芒、横縞の芒、斜縞のやはず芒を、穂のない葉ばかりのものを使って、数多く三百本と用いて段取り挿けにしたりとすることもある。
● 檜扇
 軸付き葉物である檜扇の挿け方としては、檜扇を三本から九本まで用いて挿ける「平組」と、そして十一本以上の檜扇を用いて挿ける「角組」の二通りのものがある。
 先ず「平組」の挿け方として、はじめに中葉を長くして葉を三枚組んで挿ける。この三枚組んで挿ける葉は、全体の姿として挿けあがった用の前にくるもので、花姿の足下を包むものである。そしてそれより檜扇の花を、体用留と三本使って挿けていき、最後にまた二葉を加える。この二枚組んで挿ける葉は、花姿の留の前に挿け、さきほどの三枚の組葉と同様に花姿の足下を包むものである、これでもって、三花五葉の「平組」とする。また花を七本・九本と多く使うときは、花姿の用の前にくる前葉として五枚組んで挿け、そして留の前に葉を二枚組んで、以上で七葉の「平組」とする。檜扇を五本使って挿けるときの組葉としては、五葉の「平組」、また七葉の「平組」どちらにしても構わない。
 次に「角組」の挿け方について述べる。檜扇の花は十一本以上使って挿け、花姿の用の前にくる前葉として葉を五枚組み、そして留の前に葉を二枚組み、足下の前方を包む葉として、合わせて七葉を用いて挿ける。そして更に、用の向こう相生のほうに葉を二枚、また留の向こう控のほうに葉を二枚組んで、足下の後方を包む葉として、合わせて四葉を用いて挿ける。角軸があり角々から四方に葉が出る出生をもつ檜扇を、このように足下の四方を葉で包んで挿ける挿け方を「角組」という。
 軸付き葉物である檜扇であるが、地上にようやく生じたときには未だ軸は見えるものではない、よって軸を見せて挿けることは出生に背くものと考えることができ、葉でもって軸を包み隠して扱うのである。
●紫蘭(しらん)
 紫蘭は蘭科に属する多年草で、花茎の上部に紅紫色や白色の可憐な花をつける。この紫蘭の出生は、葉が先ず向かい合って二方へと出て、その中より花茎が伸びていき花が生じる。よって花瓶に移しとって挿けるときも、この紫蘭の出生に従って挿けるものである。つまり、向かい合った葉でもって形を整え、その中に花が位置するように挿けていく。「実」として紫蘭の出生に准じて挿け、また挿け花つまり「虚」として移しとる。これをもって虚実の扱いとする。
 この紫蘭は三本より九本まで使って挿ける。大きいものは三尺あまりにまで伸びるものがあり、軸も太く幅も広いが、このような大きなものは数を増やして挿けるものとする。
●巌蘭(がんらん)
 常磐草である巌蘭の出生も紫蘭と同じく、葉が先ず向かい合って二方へと出て、その中より花茎が伸びていき花が生じる。よってこれを挿けるときは、この巌蘭の出生に従い、向かい合った葉で形を整え、そして別の花茎でもって花が中心に位置するようにと挿けていく。花は二本か三本と少なめに使って、これを葉に添わせて使って挿けるものである。
●金鶏蘭(きんけいらん)
 金鶏蘭は蘭科に属する多年草で、花は葉が出たその脇から生じていく。この出生は巌蘭と同じで、その挿け方や扱いも巌蘭に准じるものとする。つまり、葉で形を整え、そして別の花茎でもって花が中心に位置するようにと挿けていくものである。
●熊竹蘭(くまたけらん)
 熊竹蘭はショウガ科に属する多年草で、葉の真ん中より花茎が生じて、その先端に紅色の斑点をつけた白い花が咲く。この熊竹蘭の葉は大きいため、挿けるときには、葉を適当な長さに切って切葉とし、葉でもって全体の姿を整えていく。また花は、花茎が葉の中心より出て咲く出生に准じて、葉の中心に位置するように挿けるものである。いっぽう、花が咲いていないときに挿けるときは、時候の草花をこれに添えて挿けたりとする。
●檀特草(だんとくそう)
 檀特草は檀特科に属する多年草で、花の丈が長く伸び、夏から秋にかけて赤色の美しい花が総状にして開く。この出生も花茎が葉の中心より出て咲くものであり、挿け方としても、花に付いた葉を用いて挿けるのではなく、別の葉でもって葉を適当な長さに切って切葉とし形を整えていく。そして別の花茎でもって、花が中心に位置するようにと挿けていくものである。
●縮砂(しゅくしゃ)
 縮砂はショウガ科に属する多年草で、四五月頃に朱色の花が開き、十月に赤い実をつける。この縮砂は、花の頃も、また実の頃にも愛でて挿ける。この縮砂を挿けるときも、花の軸についた葉を用いることなく、花の付いていない葉でもって花の姿を整えていく。そしてこの中より、花が咲いたものを用いて挿けるものである。
●欝金蕉(うこんしょう)
 欝金蕉はショウガ科に属する多年草で、その花は葉が四方に出た中より生じる。よって花の軸についた葉を用いることなく、花の付いていない葉でもって花の姿を整えていく。そしてこの中より、花が咲いたものを用いて挿ける。二本を寄せて使い、これを一本のこころでもって挿けていくものである。また、丈が長く伸びない欝金蕉は、三本位にして数を少なく挿けたほうが美しい。
●美人蕉(びじんしょう)
 美人蕉はバショウ科に属する多年草で、その花は葉の中心より鮮紅色に生じる。この挿け方も、花の軸についた葉を用いることなく、花の付いていない葉でもって花の姿を整えていく。そしてこの中より、花が咲いたものを用いて挿ける。
●芭蕉(ばしょう)
 芭蕉はバショウ科に属する多年草で、その丈は非常に長く伸び上がっていき、また葉も非常に大きいものである。よって、この芭蕉を挿けるときは、できるだけ小さなものを選んで用いる。この応合いの花としては、大菊をはじめとして存在感のあるものを用いて挿ける。
 また「花の王」と呼ばれる牡丹に対して、この芭蕉はその雄大な姿から「草の王」とも呼ばれている。