28 葉物 組み方 九ヶ条
 葉物組み方の事として、唐おおばこ・岩蕗・宝子・擬宝珠・水芭蕉・紫苑・芭蘭・万年青・浜万年青の九種のものが伝わっている。以下にその組み方として詳しく述べるものとする。また、葉物の組み方として現在よく挿ける花材としては、カラー・アンスリュームなどを挙げることができる。
●唐おおばこ
 唐おおばこはオオバコ科に属する多年草で、一般的なおおばこに比して葉が大きく、その丈も長く伸びるものである。その出生として、この葉は十方へと開き出て、そして夏から秋にかけて四方に生じた葉の間より穂状に花が咲く。
 「実の出る処は真中にあらず。」と伝書にあるように、真ん中より出ることのない花の穂を「実」として扱い、この花の穂でもって三才の格をとり、そしてまた葉でもって姿を整えていくものである。添うて添わずの葉、また境葉を挿けて、丈に準じて五葉から九葉まで組んで挿けていく。「実」として花の穂を使う箇所としては、体の葉の後ろより一本挿けたりと、とにかく組葉の外に用いて、葉よりも高くして挿けるものである。
●岩蕗(つわぶき)
 岩蕗はキク科に属する多年草で、黄色の花が群生して咲く。
 この岩蕗の挿け方として、先ず用に大葉を挿け、そして体に少し小さい葉を用い、また体と用の間に添えとして小葉を使って挿ける。大葉と大葉の間に小葉を用いることがなければ変化もなく、また風雅な姿をそこに求めることはできない。よって小葉を用いるわけだが、この小葉のことを「力葉」という。
 花は組葉の中に葉よりも高くして用い、五葉一花、五葉二花、七葉二花、七葉三花、九葉三花と挿けるものである。数多く用いるときは、界葉を用いて株を分ける。また、この岩蕗は多年草であるので、花のないときには、麗しき草花を応合って挿ける。
●宝子(たからこ)
 宝子はキク科に属する多年草で、尖った葉先と葉牙をもち、また黄色い花を咲かせる。異名として、般若草ともいう。この出生は岩蕗と同じで、また挿け方も岩蕗に準じるものとする。
●擬宝珠(ぎぼし)
 擬宝珠は百合科に属する多年草で、葉は卵形のもので十方に広がり、また紫色の花を真ん中より咲かせる。擬宝珠の葉は花に比べて大きく、その挿け方として、先ず用に大葉を使って挿け、次に体に中葉を挿ける、そして留に小葉を使って挿け、このように葉でもって形を整えていく。また体に大葉を用いて、用に中葉を用いても調和をとることができる。何れにしても、葉の大中小をうまく取り合わせてバランスよく挿けることが大切である。
 また数多く挿けるときは、添うて添わずの葉、そして界葉を挿けて株を分け、三花九葉まで挿けるものである。
●水芭蕉
 水芭蕉はサトイモ科に属する多年草で、細長い葉をもち、そして花は春に緑白色のの仏えん花をつける。
 この挿け方としては、全体的に小さなものであるので、七葉二花までにして挿けるものである。また擬宝珠と同じ扱いとし、葉でもって形を整えていくものである。
●紫苑
 紫苑はキク科に属する多年草で、葉は向かい合って生じ、薄紫色の花を咲かせる。この出生として、葉が向き合って生じるので、この葉のことを「拝葉」という。
 挿け方としては、先ず用に大葉を挿け、この葉に向き合うようにして「拝葉」を挿ける。このとき、大葉と拝葉の二枚の葉が同性のものとならないように、一枚は直ぐな葉を選んで使い、もう一枚は曲のある葉を選んで使って挿けることが肝要である。ここにも陰陽和合の理が埋め込まれているといえる。そして、この二枚の葉の間に、用の花として葉よりも高くして花を挿ける。
 次に、体は中葉でもって「拝葉」を使い、これも用と同じ扱いでもって挿ける。また、小葉を使って挿ける留も、用と体と同様に扱って挿けるものである。
 未生の理では、七つ目に生じる変化に対して、四つ目にしてようやく物事が確かなものとして定まるものとし、元来は花一本に対して葉を三枚使うのが「三葉一花」としての定方である。よって、五葉にしても花は一本使い、そして七葉にしてようやく花を二本使い、また九葉にして花を三本使うのである。しかし、力強く大きい葉をもつ紫苑のような類いのものは、界葉を使いながら株を分けて、五葉二花、また七葉三花と挿け、「三葉一花」の定法によらずに葉を組んで使っても構わない。これは、いわゆる虚実の扱いであるといえる。
 以下に、「三葉一花」の考えを述べるので参考としたい。一という太極から二という両儀に、そして万物を構成する天・地・人という三才が定まっても、人が声を発することがなければ、天地という概念も生じることはない。この人の声は認識するということであり、これは四つ目のものと捉えることができる。一が生じて二となり、そして三に通じ、また一に戻る。一日も夜の子の刻(十二時)に一陽が生じ、そして丑の刻(二時)には陽が漸長し、また寅の刻(四時)に陽が確かなものとして定まる。しかし、未だ明るくはない。明るくなるのは、四つ目の卯の刻(六時)である。このように天地自然は三が定まらなければ、次の展開の花を生じことはないのである。よって、一花三葉の割合よりも葉の数が多いのは構わないが、少ないのはよくないとされている。
●芭蘭
 芭蘭は、百合科に属する多年草で、三月より四月まで春に花を咲かせる。この芭蘭は三葉五葉七葉九葉と、葉の丈に応じて、多くは五十枚と挿けることがある。
 先ず七葉の組み方として、裏葉である界葉を用いて四枚の一株と三枚の一株とし、あわせて二株に分けて挿ける。万物は七つ目に変化するものといわれているが、この陰と陽の境を成す七つ目の葉を界葉として日裏を用い、そしてこの界葉によって株を分けて「二季の通い」を備えて挿けるのである。また九葉、十一葉と挿けるときは、界葉を二枚用いて、三株に分けて挿ける。さらに、これよりも多く挿けるときも、界葉を多く使って株を分けて挿けていくものである。また相生のような添うて添わずの葉も数を限らず程よく使って挿けていく。
 この芭蘭は常磐草であるので、時候の草花をこれに応合って挿けても構わない。この応合いの方法として、先ず芭蘭を十三葉、十五葉と常のごとく挿ける。そして体と用の間、また体添の間、そして留の間、さらに用と用添の間に、ナデシコや仙翁などのきゃしゃな花をちらちらと見せて麗しく使って挿ける。また芭蘭は三月より四月まで春に花を咲かせるもので、この花は非常に小さいものである。よって春に芭蘭を挿けるときは、応合いの花を添えることは控える。
 広口などに挿けるときは、三才の石飾りをして砂利留めとし、大株を二株、三株と挿ける。またその間に、「尖葉」に花を添えたものを応合って挿ける。この「尖葉」とは、葉の先が巻いた状態にある新葉のことである。またこの「尖葉」には左旋と右旋の別があり、陰陽和合のこころでもって扱うものとする。大広口であれば、天一地六の割合で小石を配し、飛び石の景色を移しとる。
 また二間、三間と座敷が続くときには、次の間には成長の芭蘭を挿け、さらに奥の床には薄広口に石飾りをして、「尖葉」に花を添えたものを応合って二株、三株と挿けて、芭蘭の出生を想わせる。茶席の床にも、このように「尖葉」に花を添えたものを応合って、陰陽和合という未生の姿を挿けて構わない。
●万年青
 万年青は、百合科に属する多年草である。この万年青の出生は、始めに向かい合って二枚の葉が出て、その中より又二枚向かい合って出る。このため自ずと中から生じる葉が新しい出生葉となる。この四葉は東西南北の四方を指して開いていく四方葉である。またこれより三葉が生じ、七葉になると花が生じるのである。花は五月頃に咲き、十二月頃には青い実が赤く色づく。七枚で始めて花を開き、実を生ずる出生から、実は七枚以上の場合においてのみ使う。ただし、万年青七五三のときの五枚葉は、成長途上ではなく、成長後の隠居した親株の意味をもつ五枚葉と捉えることができるので、万年青七五三を挿ける時には、五枚葉にも実を使って挿けて構わないとされている。
 先ず、七葉一実の挿け方として、先端が丸みを帯びた二年目の葉を体と用に使って挿け、特に広く丸みを帯びた三年目の葉は実囲いの葉として留に用いて挿ける。また、体と用の間に先端が尖った一年目の葉を体添・用添として出生葉を二葉使う。そして、用添に風囲いの葉を、また体添に霜囲いの葉を使って挿けるものである。
 実を守る葉としては以下のものがある。先ず、実の上にあって霜から実を守る霜囲いの葉(体後添の葉)、次に実を風から防ぐ風囲いの葉(用添の葉)、そして実を抱えて実を守る実囲いの葉(留の葉)、また砂・泥から実を防ぐ砂囲いの葉(控の位置)泥囲いの葉(留後添の葉)とあり、それぞれに実を守る役目を成している。特に霜囲いの葉と風囲いの葉と実囲いの葉の三枚は、実を守る三役と呼ばれている。
 九葉、十一葉、十三葉までは、この実を守る三役を使いながら一株に挿けるものである。またこのとき、実囲いの葉は、枯れ葉を混ぜて二葉、三葉と用いてもよいとされている。すなわちこの三葉は、実囲いの葉(留の葉)、砂・泥から実を防ぐ砂囲いの葉(控の位置)泥囲いの葉(留後添の葉)のことである。また万年青は、十三葉までは実を一つだけ使って挿けるものとする。これは、先程も述べたように、七枚で始めて花を開き実を生ずるという、万年青の出生に准じたものである。
 十五葉の組み方としては、七葉・五葉・三葉の三株をひとつに寄せて、実は二本使って挿ける。先ず、盛んな子株を現す七葉一実(立姿)の株として、先端が丸みを帯びた二年目の葉を、体(時代を担う堂々たる子株の葉)と用に使い、特に広く丸みを帯びた三年目の葉を留に用いて挿ける。そして、体と用の間に先端が尖った一年目の葉を、体添・用添として出生葉を二葉使って挿ける。出生葉は葉の見えない下部分を大きくそぎ取って使うものとする。さらに、用前添(留が転じたもの)に風囲いの葉、そして体後添に霜囲いの葉、また控の位置に砂囲いの葉を使う。この七枚葉の体・用は、「万年青七五三の一株扱い」全体の体・用の扱いとなる。次に隠居した親株を現す五葉一実(横姿)の株として、先端が丸みを帯びた二年目の葉を体と用に挿け、特に広く丸みを帯びた三年目の葉は留に使って挿ける。そして体と用の間に先端が尖った一年目の葉を、体添・用添として出生葉を二葉使う。この横姿の五枚葉における用は、「万年青七五三の一株扱い」全体の留の扱いとなる。最後に、将来の発展を期する孫株を現す、三葉(立姿)の株として、体・用・留と若い一年葉を使って挿ける。伝書に実囲い三葉にて根元を包むとされているのがこれである。以上でもって七五三の伝とする。
 また広口などに挿けるときは、華奢な時候の草花を応合って挿けたりとする。大広口に挿けるときは、さらに種々の万年青を取り混ぜて五株、七株と挿け、また応合いの草花をこれに添えて挿けても構わない。
●浜万年青
 浜万年青は、「はまゆう」という名でよく知られるヒガンバナ科に属する多年草である。その出生は万年青と同じであり、その挿け方も万年青のそれに准じるものとする。相違点としては、水仙の袴のような外皮である、葉の鞘を足下につけて姿よく挿けたりすることがある。また花は、開花に至って葉よりも高くなることより、花を使って挿けるときは、葉よりも少し高くして挿けるものである。