29 長葉物 挿け方 九ヶ条
 長葉物挿け方の事として、伝書では九種の花材が挙げられている。しゃが・いちはつ・おきなぐさ・かんぞう・正宗菖蒲・縞蒲・花菖蒲・水仙・蘭の九種類であり、以下に詳しく述べるものとする。長葉物である杜若は、「杜若四季咲き挿け方心得の事」を参照いただきたい。また長葉物として、現在よく挿ける花材としては、アママリス・アガパンサスなどがある。
●しゃが
 しゃがはアヤメ科に属する多年草である。しゃがは、葉が柔らかいために外して葉組することができない。よって葉を組み直すことなく、葉をそのままに使って挿ける。
 先ず四・五枚の行儀よく組んだ葉、つまり自然のままの葉で姿良く葉組された様をもつ葉で、四・五枚のものを使って花姿の用として挿ける。そして用の花と体の花を挿けて、体の葉として自然のままの葉で三・四枚ついたものを挿ける。最後に、留の花を挿けて、小さい葉で姿のよいものを留の葉として挿ける。このとき、小さい葉がなければ、留の葉は組み直して、葉組して挿けても構わない。
 花数を多く使って挿けるときは、界葉を使って株を分けて挿ける。また、咲き始めの頃の短い花を挿けるときは、しゃがの花を葉よりも低く用いて挿け、また旬の開花のころ高い花を挿けるときは、しゃがの花を葉よりも高く使って挿けるものである。いずれにしても、挿けるときのしゃがの姿とその時候を見極めて挿けることが肝要である。
●いちはつ
 いちはつは、アヤメ科に属する多年草である。挿け方・花葉の使い方ともに、しゃがの時と同様であると伝書には記されている。しかし、葉が柔らかい「しゃが」に対して、「いちはつ」は葉がしっかりしているので、葉を組み直して挿けて構わない。とにかく、姿良く葉を使うことが肝要である。花は二本三本五本まで使って挿けるものとする。
 花を三本使う挿け方として、先ず用に三枚葉を中低にして組み、用の花を葉よりも高くして挿ける。次に体と用の間に界葉として二枚組んで挿け、そして体の花と体の葉を三枚使って中低にして挿ける。最後に留の葉を中低に三枚組み、留の花を挿けるものである。
 「しゃが」「いちはつ」ともに掛花器を使って挿けたり、また他の花材の応合いの花として添わせて挿けたりとする。
●おきなぐさ
 おきなぐさは、長葉物ではないが百合科に属する多年草のことと思われる。おきなぐさは、その出生が、古葉の中より若芽に花をもって生まれ出るものとされている。よって若芽のものを一株づつ使って、そのままにして「実」によって挿けていく。また、このとき古葉を添えて花の姿を整えていき、新葉と古葉をうまく調和させて、その出生を表現する。花は出生に応じて、組葉の外に添えて挿けるものである。
●かんぞう
 かんぞうは別名で「わすれ草」ともいい、百合科に属する多年草である。かんぞうの花茎は、古葉と新葉の間より、葉の外より添って生じるものである。これは万年青の実が生じるところのものと同様である。よって、かんぞうを挿けるときには、葉でもって全体の姿を整え、そして花は葉の外に添わせて使うものである。
 株分けにして一株に花を一本使い、二株三株と挿けていく。三株挿けるときは、花姿の体用留に一株づつ挿けて、花を三本使い、そして古葉でもって花の足下を包んで挿ける。この花の足下を包む古葉のことを「花囲いの葉」といい、古葉と新葉より生じる出生を現したものである。
●正宗菖蒲
 正宗菖蒲は、サトイモ科に属する多年草である。ちなみに花菖蒲・杜若・いちはつはアヤメ科である。
 この挿け方としては、自然のままの葉で姿良く葉組された様をもつ葉は、そのまま使って挿ける。しかし、そのような葉がないときは、葉を中低に組んで葉組みして挿ける。また「花の咲かざるものなれども美しき葉故用う」と伝書にあるように、正宗菖蒲は杜若のような美しい花を開くものではなく、一見したところ実と見間違うような花であるが、その葉のもつ美なるをもってして挿けるものである。
 花器は据物を使い、二株三株と挿け、また縞の葉の杜若・水葵・オモダカなどの水草を応合って挿けたりとする。さらに、花車な麗しい陸物の草花を応合って、水陸分けにして挿けたりともする。
●縞蒲
 縞蒲は、縞のある蒲で、ガマ科に属する多年草である。縞蒲の穂が出るような頃になると、葉が十分に伸びすぎて格好のいいものではない。よって、穂が出る前の、若い葉のあまり伸びてないものを使って挿けるものである。また葉はねじれがあるので、これを風情よく直して挿ける。
 花器は据物を使い、魚道を分けて水草を応合って挿ける。また水陸分けにして、縞蒲に陸草を応合って挿けたりとする。縞のない普通の蒲も挿けるが、葉でもって全体の花姿を整えて、そして穂は程よい長さとし、葉に添えて使って挿けるものである。
●花菖蒲
 花菖蒲はアヤメ科の多年草である。
 この挿け方として、七葉二花で挿けるときは、先ず花姿の用として三枚の葉を中低にして組む。そして、体の花に開いたものを使って、陽の花として挿け、また体の葉を二枚挿ける。このとき、花は葉よりも高くして使う。最後に、留の花として莟のものを使って、陰の花として挿け、留の葉を二枚組んで挿ける。開花の高い花を「陽」と、そして莟の低い花を「陰」と捉えて扱うものである。
 また九葉三花の挿け方として、先ず花姿の用として五枚の葉を中低にして組み、用の花として満開のもの、体の花として半開のものを用いて挿ける。次に、体の葉を二枚組んで挿ける。そして最後に、留の花として、莟のものを用いて挿けて、留の葉を二枚組んで挿けるものである。
 十五葉五花の挿け方としては、先ず花姿の用として五枚の葉を中高にして組む。真ん中の葉を中高にして挿けるのは、十一葉・一五葉と数多く挿けるときである。真ん中の葉は成長の度合いによって中低となったり、また中高となったりとするのが出生である。全体の株で考えたときに、九葉までは未成長のものと捉えて中低とし、そして十一葉以上になると株として成長したものと捉えて中高とするのである。また女性的な杜若に対して、菖蒲は男性的なものであるので、中高として力強く挿けたほうが美しいとも言われている。
 次に、用の花と用添の花を二本使って挿ける。そして、体の前に界葉として葉を三枚組んで挿け、体の花と体添の花を二本使って挿ける。また体の葉を長短に四枚使い、最も長い葉を後ろにして、その葉を折って「風折葉」として挿ける。菖蒲は杜若と違って、その出生が直立した葉であるために「冠葉」を使うことはない、風のために葉先が折れることが多い出生より、この「風折葉」を使って挿けるのである。そして最後に、莟のものを使って留の花を挿け、留葉三枚を組葉にして挿ける。
 また、さらに一五葉以上に組んで、数多く挿けても構わない。
 この項に、花かつみ・あやめ・馬藺草の挿け方として、この三種は細葉であるので、葉を組み直さずにそのままにして「実」の扱いとし、たくさん使った葉の中に花がちらちらと見えるように使って挿けるものと伝書に記されているので参考にしたい。
●水仙
 水仙はヒガンバナ科に属し、早春に他の花にさきがけて花を咲かせる。出生として、水仙は左右にそれぞれ二枚の葉が向き合って生じ、その間より花茎が伸びていく。また、足下は袴と呼ばれる白い根に包まれている。その出生より、四枚の葉を一元として扱い、その中に花を一本使い、あわせて一花四葉と定めて一元とする。これは出生に添った「実」の扱いといえる。
 この水仙の葉の扱いとして、指先で自由に揉めて形をとることができる。二元の挿け方として、先ず足下の袴のところを手で揉んで潰して外しておき、一元として葉を組む時に根元にこの袴をはかせる。このとき、袴の長いほうが、葉の長い方にくるように扱うものとする。
 そして一花四葉でもって一元の株をつくり、これを「陽の株」とする。この「陽の株」は、片方の二葉でもって体の格をとり、そしてもう一方の二葉でもって用の格を備える。次に、同じく一花四葉でもって一元の株を作り、これを「陰の株」とする。この「陰の株」は、片方の二葉でもって体添とし、そしてもう一方の二葉でもって留の格を備える。このとき、体添となる二葉は一枚に見えるように重ねて使うものである。つまり、この陰の株を、陽数である三枚に見えるようにして「陰中陽」と捉え、「虚」の扱いとする。このように「陽の株」を「実」とし、そして「陰の株」を「虚」として、ここに虚実等分の働きを見てとるものである。
 三元の挿け方としては、体用留それぞれを一元でもって姿を整える。また五元は、体に二元、そして用に二元、また留に一元として五元で挿けたり、体用留相生控それぞれに一元使って五行格として挿けたりする。そしてさらに、七元までに葉の丈に応じて、数多く挿けていくものである。
 また広口を用いて株を増やして数多く挿けるときは、大株を出生のままに使って挿け、「実」の扱いとし、いっぽう小株は挿花の法に従って揉めて挿け、「虚」の扱いとしたりする。これは、すなわち体用の挿け方であるといえる。
●蘭
 蘭は蘭科に属する多年草であり、唐より日本に渡ってきたものと伝書に記されている。
 先ず五葉一花の挿け方として、花姿の用に皮骨肉を備えた趣のある曲がった葉を挿け、用の添として真直ぐな葉を挿ける。この二葉でもって、「象眼」を取るものである。「象眼」を取るとは、象の眼ように細く、切れの長い空間を、この「曲の葉」と「直の葉」でもって作り出すということである。
 次に、体に勢い強い葉を挿け、そして体の添として後ろへひらりと返る葉を使い、最後に留として真直ぐな葉を挿ける。この体添の葉と留の葉でもって、「鳳眼」を取るものである。「鳳眼」を取るとは、最も貴き相であるとされる鳳凰の眼のような空間を、この「曲の葉」と「直の葉」でもって作り出すのである。古い観相術では目の形について、鳳眼を最高として以下、竜眼、牛眼、羊眼、蛇眼など、細かく分けて眼形を規定している。人間の資質を洞察する観相上で、最も重要なものは目とされている。
 花は葉の手前より挿けて、体と用の葉の中に出して使う。花は組葉の外より生じるため、花の軸を隠してはならない。七葉二篠、九葉二篠、十一葉三篠に挿けるときは、花は三本使って挿けるものとする。花器としては、銅製のものや陶磁器がいいとされている。