33 実物 挿け方
 天地の間にある森羅万象のものの姿に、陰陽が備わらないものはない。つまり形が生じれば、上下・左右・内外・表裏と相対したところが必ず備わるものである。しかし実物は、その姿が円にして陰陽が肉眼では分かりにくい。姿に陰陽の備わらないものは、その用を達することはない死物であると捉え、これを挿花に用いることはできない。よって万年青・南天・石榴などの実物を挿花として使うときは、必ずそこに陰陽を備えて挿けなければならない。
 その昔、御書院の先に見事に咲いている南天があった。遠州公は、その麗しい実のある南天を挿花として挿けたいと常々思っていたが、陰陽の区別のないものを挿けるのをためらい、ただ眺めているだけであった。ところがある日、ひよどりが飛んできて南天の実をついばみ飛び去っていった。これを見た遠州公は、これで陰陽が備わったと、即座に挿花として愛でたという故事がある。鳥が実をつつき、実の中が表面に出ている情況を現し、鋏で「鳥の嘴当り」として疵をつけ、陰陽を備える方法が伝えられている。
 しかし、未生流では自然の風情のままに、実物に陰陽を備えて用いることが大切であるとしている。挿花百錬に「実物を花として取り扱うときは表裏、内外、陰陽和合を備えて挿花とする。私を用いず、自然にまかすを以って当流の伝とする」とあるように、実の中が自然に現れているような風雅のあるものを選んで挿けるのである。また実物の表を前にみせて使うを「陽の扱い」とし、裏を前にして使うを「陰の扱い」として、陰陽を備えて挿けることもある。