4  桜散り残りたる景色 挿け方
 花器は台付きの広口を使い、三才または陰陽二石の飾り石をする。先ず飾り石の定法である天石のところへ、洞のある古木を使って古木扱いにして立ち姿に挿ける。このときの姿は、老樹の桜が自然にして、久しい時の流れを感じさせるような趣でもって、実の姿で挿ける。桜の古木がなければ、他の洞のある古木を用いてもよいが、このとき桜の皮を外したものを巻いて、桜の老幹の感じを作り出す必要がある。
 次に、この古木の洞の中に、花が九輪ばかり付いた桜の枝を挿ける。日の当りの悪い洞の中では開花も遅れ、また風雨にさらされることもないので花が散るのも遅くなる。この桜を「花留桜」といい、散り残った桜の花をここに表現するものである。また九輪の花のついたものを使うのは、九は地の数であることに因る。大地の恵みのもとで、実の姿として桜が散り残った風情を現すのである。この「花留桜」以外には花を使うことなく、花の過ぎた姿の桜だけを使って挿ける。この洞を使って古木扱いをするところの、天石に挿ける大株の桜は、「実」にして「体」であるといえる。
 そして、この大株の桜と谷間を分けて、若枝を横姿にして地石のところへ小株でもって挿ける。この若枝には花が程よく散り残ったものを使って挿ける。日当たりが悪いために咲き始めるのが遅く、そのぶん散るのも遅れた谷間に咲く桜を移しとるものである。この横姿に挿ける桜は法格を正しく守って挿け、すなわち「虚」にして「用」であるといえる。
 実の扱いをする天石の花と、虚の扱いをする地石の花を広口のもとに移しとり桜散り残りたる景色を現す。すなわち、これは虚実等分・体用の挿け方である。そして最後に、瓶中・瓶外に桜の花を程よく散らして使い、桜散り残りたる景色を風情よく移しとる。
 また置花器・薄端などに挿ける時も、体に古木を使って古木扱いとし、これに花の付いた枝を姿よく応合って桜散り残りたる景色を表現する。古木に若枝を添えて使うことで、生々流転する時間の流れを己の内に感じることができよう。
 桜は「千早振る神代の頃、花を挿む事の始めに花瓶に移し給いしとなん。石上古き書に見えたり、是れ試に二本にては草木花中の主にて、蔵王権化のご神木なれば、是軽々しく取り扱うことを禁ず。」とあるように、古来より桜は花の王と称せられ、また日本の国花としても尊ばれている花である。