8  糸柳三景 挿け方
 糸柳はしだれ柳ともいう。糸柳三景として、「糸柳長閑の景色」「糸柳春風に随う景色」「糸柳雪中の景色」の三つの挿け方が伝わっている。
 先ず「糸柳長閑の景色」は、風も吹かない春の日に、糸柳が静かに垂れ下がる風情を現す挿け方である。このとき、花器は掛花器の二重切を使って挿ける。上口には、柳を横姿にして十分に垂れ下げて使い、柳の本性と長閑なこころを表現する。
 糸柳は枝が垂れるのが本性・出生であって、よって垂れ下がる「死の枝」が実の姿である。また一方で立ち上がる「活の枝」は虚の姿であるといえる。この虚実の姿をもって、垂れ下がる「死の枝」が七割くらいに、そして立ち上がる「活の枝」が三割くらいとなるように定めて、死活の枝をつくって挿けていく。「死の枝」の次は「活の枝」、そしてその次は「死の枝」とバランスよく使っていくことが大切である。
 また、留の枝は短いので「活の枝」を中心に挿けてもよい。ただしこの時も枝先に強い勢いを持ったものを使ってはならない。この糸柳は、法格を正しく守ることに固執することはない。垂れ下がる柳の性と、そして長閑な情でもって表現し、この性情の両気を備えた体用相応した姿で挿けるものである。この糸柳長閑の景色は、体である性と、用である情を現す体用の挿け方なのである。また一方で、下口の花は椿などを立姿にして、しっかり法格を守って挿けるものとする。
 次に「糸柳春風に随う景色」は晩春の風景であり、暖かく強い春風によって、川辺に大きく垂れる柳が吹き上げられている様子を現す挿け方である。このとき、花器は置花器か薄端を使い、古木に若枝を添えて挿ける。
 挿け方は、体は「吹き上げの枝」として、風が下から吹き上げるように枝先を上にため上げる。そして用は「吹き下しの枝」として、体の枝を吹き上げた風が、回り回って用の枝を留の方に向って吹き下している姿にする。また留は「吹き流しの枝」でもって、用の枝からの流れを受けて水平に流して挿けるものである。
 このように垂れ下がる柳の本性と、柳が春風に舞う情を表現する。このように、性情の両気を備えた、つまり体用相応の姿でもって挿けるものである。この挿け方は風情ある柳の姿を表現するものであり、よって多少の枝の見切りは許される。これに応合う花としては、椿や千両など華奢な花を選んで挿ける。
 最後に「糸柳雪中の景色」は冬の雪の中の景色であり、夜に降った雪のために、柳が一層垂れ下がった姿を表現するものである。雪の中の景色であるので、応合いの花を使うことはなく、小垂れの柳を使って一種でもって、置花器か薄端に挿ける。
 全体の姿として、雪が降り積もったような様になるよう柳の枝をためていく。枝の上の部分は雪の重さでたわみ、枝の先の方が雪をはね上げるような感じになるようにして挿ける。また、枯木に若枝を添わして挿けて大樹の姿を現す。枝のため方としては、ためる角度をきつくして、角だてて肩をそびえさせるようにする。やわらかな円味のあるようなため方はしない。また、このときの糸柳も法格にあまり固執することなく、体用相応のこころでもって挿けるものである。