1b 上巳の花
 三月三日は「五節句」の一つである「上巳」で、「桃の節句」である。古代の風習としては、この日を除厄の日として、水辺で身を清めて不浄を祓った。そして平安時代の宮中では、曲水の宴が張られ祓えが行われた。曲水の宴とは、曲水に臨んで上流から流されてくる杯が自分の前を過ぎないうちに、それぞれが詩歌を作り、杯をとりあげて酒を飲み、さらに次へ次へと流していく行事である。また祓えのときの紙人形である「形代」をつくり、己の穢れをその「形代」に移して川や海に流して不浄を祓った。これは流し雛の風習として各地に伝わっている。
 現在では主に女児を祝う節句として、厄除けの人形である内裏雛を飾り雛祭りが行なわれている。内裏雛の並べ方としては、当初すべて男雛は向かって右、また女雛は向って左に置かれていた。向って右(そのものの左)は陽、いっぽう向って左(そのものの右)は陰であることに因る。
 また桃には厄除けの意味があり、桃の実は三千歳の齢をもつ仙果とされている。重陽の節句における菊酒、そして端午の節句における菖蒲酒に対して、桃酒は百病を除くとされている。 
 この上巳の節句には、桃一色を挿けるものである。全体的には桃の若芽を主体として使って挿け、咲いた花は体添に、もしくは内用の枝に奥ゆかしく使って挿ける。これは陰の方につつましくある女性の在り方を示すものである。
 また、このときに挿ける桃は一重にのもの限る。八重のものには毒があるとされているためである。桃の花が散ってしまっている時には、若芽の出た桃に、山吹などの草花をあしらって挿けてもよい。さらに広口を使って株分けにしたりと、数多く挿けたりもする。