1e 重陽の花
 九月九日は五節句の一つである「重陽の節句」である。陽数(奇数)で最も大きい、位の高いとされる九の数字が月日に並ぶことから重陽の節句とされている。この日、中国では高い丘などへ登る「登高」を行い、また菊の花を飾り、菊酒を飲み厄除けをした。日本でも、奈良時代より宮中では、杯に菊花を浮かべた酒を酌みかわして、互いに長寿を祝い、詩歌をつくって宴を楽しんだ「観菊の宴」が催された。江戸時代には、五節句の中でも最も公的な性質を備えた行事となり、武家の間では菊の花を浸した酒を互いに汲み交わして祝い、民間ではこのとき菊を飾って粟御飯が食されたりとした。菊は寿命を延ばす延寿の効があるとされている。また蘭・竹・梅と共に「四君子」のひとつとされている。
 この重陽の花としては、菊五色を挿けるものである。体に白菊を、用に黄菊を、そして留に赤菊を挿け、それぞれの菊の葉を青とする。黒色の花はないので、水をもって黒と見立て、以上の白・黄・赤・青・黒でもって五色とする。
 この重陽の花では、水も「五色」の黒という意味を成すものであるため、よく見えるように十一分にたっぷりと水を注いでおく。また、色々な菊を取り合わせて株分けに挿けたり、三重切の花器を使って三種挿けにしたりとしてもよい。