2c 人日の花
 正月七日を「人日」という。中国では、正月一日を鶏の日、二日を狗の日、三日を猪の日、四日を羊の日、五日を牛の日、六日を馬の日、そして七日を人の日として、それぞれの日には、その動物を殺さないようし、この「人日」の日には、犯罪者に対する刑罰も行われることはなかった。また、天候でその年の運勢を占い、晴れなら幸の陽があり、そして曇りなら災いの陰があると、その日の陰陽から一年の動向を占った。
 この正月七日「人日」のときに、人の命をつなぐ大切なものとして、春の七草(なずな、すずしろ、ごぎょう、はこべ、せり、すずな、ほとけのざ)を入れて炊いた粥を食べる風習がある。この七草を食すれば、その年の万病を除くことができるといわれ、江戸時代には将軍以下が集まって七草粥を食べて祝う幕府の行事なども行われた。この「人日」は「七種の節句」として、古くは「元旦」に代わって「五節句」とされていたときもある。ちなみに、春の七草に対して、秋の七種は、萩・尾花・葛花・撫子・女郎花・藤袴・朝顔(現在では桔梗)の七種をいう。
 春の七草として、「なずな」は身近なものとしてペンペン草のことをいい、その味は甘く、消化機能を整えて血圧を下げるなどの作用がある。また「すずしろ」は大根のことで、胃腸に良いものとされている。「ごぎょう」はハハコグサのことで、春に花をつけてから根より引き抜いて陰干しする。そしてこれを煎じて飲めば、咳を止めるといわれている。「はこべ」はハコベラやヒヨコグサのことで、汁物に入れて食し、胃炎に効くとされている。また春の七草の代表格で、二千年も昔より薬草として用いられてきた「せり」は、根を捨てないで用い、その香りは強く、精神状態を安定させたり、肺を潤して咳を静めたりする効用がある。「すずな」は現代のカブのことで、大根よりも甘く、大根と似た薬効がある。「ほとけのざ」はキク科のタビラコの別称でホトケのツズレともいう。薬名は宝蓋草で、打撲、筋肉や骨の痛み、四肢の痺れに効くとされている。
 この「人日」のときに挿ける花としては、「梅」「柳」「椿」を使って挿け、これにナヅナか若菜の葉を三葉・五葉と添えて挿ける。三元の冠花といわれ新春にちなむ芽出度いものとされている「梅」、また垂れ物であるがその勢い強く、成長が早く芽出度いものとされている「柳」、そして八千年の寿があるとされる「椿」、この「梅」「柳」「椿」を主体にして使うのである。これに添える花としてはナヅナか若菜の葉とするが、その時候にあった自然の花を応合って挿けたりしてもよい。