3e 家名続目 入院の花
 「家名続目」とは、戸主の隠居や死亡に伴って、長子が家名・跡目を継ぐものである。一方、「入院(じゅいん)」とは、戸主が長子に家名を譲り隠居すること、また出家することをいう。
 先ず「家名続目」のときの祝いの花としては、ゆずり葉を挿ける。また、ゆずり葉に白梅などの位の高い花をあしらって挿けたりとする。ゆずり葉は、新しい葉が育成してから、古い葉が譲って落ちていく出生をもつ常磐木である。長子の成長を待って戸主である父が引退し、そして今後も家名が代々と続いていくことを願って、ゆずり葉を挿けるのである。ゆずり葉に添える梅は、他の花に先駆けて咲くものであり、この清純な白梅は古木扱いにして挿ける。古木は代々伝わるもの、そしてその古木から新しい白梅が生じていくような姿にして挿けるのである。ここに、「陰中陽」の姿が現されている。
 「入院」ときの祝いの花としては、開くということを嫌い、よって開く花の類のものを使ってはならないとされている。退いた後には、潔く陰に徹するべきものとの考えからのものである。この「入院」の祝いのときは、五葉の松を一種のみ使って挿ける。松は千年の緑を尊ぶもので、古今に渡って色をもたず、また五葉の松は木火土金水という五行を現すものである。退いた後は、華やかなものを避け、太極・両儀・三才・五行と万物の辿ってきた流れを、ただただ感じ、己の内で深めていくことが大切なのである。また陰の司である竹に、実物や清浄な白い花の莟だけのものを添えて挿けることもある。このとき、実物は赤いものを使ってはならない。他の祝い事の折には、目出度い花や位の高い花などを用いて挿けるが、この「入院の花」は祝事といえども華やかに花を挿けるものではない。