4b 新宅移徒の花
中世の貴族社会では引っ越しのことを「移徒(わたまし)」と呼び、その後に行われる宴会では粥や湯漬けを食したといわれている。中世移徒の粥の変化したものとして、江戸時代ではそばを近所に配る風習があり、現在にも伝わっている。
新宅に移転する時の花としては二重切の花器を用い、先ず下口には白い花や水草を挿け、四季の足し水に応じて水を注ぐ。四季の足し水とは、春・秋には叉木より口までが九分となるように、夏には十分に、暑中には十一分に、そして冬には八分、寒中には七分までの高さとして、水を注ぐものである。この四季の寒暖に応じて足し水をすることで、水は「死の水」から「活の水」と変化するのである。また、二重切花器の上口には花は挿けずに、火難を防ぐ意味から、四季の変化に関わらず水を充分にたくさん注いでおく。
この「新宅移徒の花」としては、火に結びつく赤色の花は挿けてはならない。このため、白い花や水草などを挿けるのである。また「ひ」の文字がつく花を挿けることもも避け、ざくろも菅原道真の家を焼いたという故事に添って挿けてはならない。いっぽう檜(ひのき)は火を除く意味からして挿けても問題はない。
新築ではない古い家に移転する時には、二重切の上の口に白い花を挿ける。そして下の口には黄色の花もしくは水草葉物を使って挿ける。このとき水は、上口下口ともに、四季に関わらず充分に注いでおくものである。