5a 花手前の心得
 「上段床手前の心得」として、先ず「上段の間」とは、書院造で段を1段高くし、貴賓の座する所とした間である。その床へ花を挿けるときには、花台を床に置き、そして水が六・七分はいった花器を上段の間の際である床縁のとこまで運び置く。そして次に水注・花盆は下段に運んで、そのまま下段に座って挿けるものである。上段の間はいくら広くても、常の床と同じものとして考える。挿け終わってから床へと運び、花を向こうに直す。それより後に水注を持っていって、四季に応じて足し水をする。最後に花台の上と床縁を拭いて、そのまま下段の間に下りる。この「上段床の間」に挿ける花としては、松・竹・梅・椿など位の正しいものを挿けるものである。また、貴人の御前であるので、万事にわたり失念のないようにすることが大切である。
 また「二畳台附きの床」とは、二畳ぶん段を一段高くし、貴賓の座する所とした床である。この二畳台附きの床も、上段の床の間と同様に考えて、花を挿けるものである。
 この上段の間と二畳台附きの間に上るときには、畳の上を直接に踏むのではなく、毛氈などの上を通らなければならない。その時の方法としては、巻いた毛氈を伸ばしながら敷いていき、その上を小膝にて進む。また戻るときは、毛氈を巻きながら小膝で戻るものである。侍従などの「上段の間立ち廻り御免の人」は、このような煩わしさを避けるために、「上段の間立ち廻り御免」と言うことで、毛氈などを用いずとも、その間に上ってよいとされている。この上段床の間、二畳台附き床の花手前は、以上に述べたもの以外は、平座敷のそれと同様である。
 「平座敷床花手前の心得」としては、以下にその順を述べるものとする。
一 花台を床の中央に置いておき、掛け物などの準備をあらかじめしておく。
二 座が定まってより、席中に出て人々に挨拶をし、床の花台の上に水が六・七分はいった花器を置く。
三 水注を載せた盆を運び、次に花盆(上に花・鋏・花留・布巾)を運ぶ。
四 床柱のほうに座る。
五 床の中央に膝行していき、花器を花台より下して床縁の際に置く。
六 花器の口を、布巾で左右にと拭き、配り木をした後に水を注ぐ。
七 「お煙草を」の挨拶をする。
八 花は、花盆の上で切って挿けていく。
九 挿け終わってより、鋏を拭いて花盆へと戻し、その花盆を水注盆の横に下げ置く。
十 布巾を、水注の盆へと載せ置く。
十一「ご退屈様でした」の挨拶をする。
一二 挿けた花を向こうのほうに寄せ置いてから、床正面に膝行していき、花を挿けた花器を花台に載せる。
十三 少し下がって、花を篤と見る。
十四 もとの座する位置に戻り、再び布巾と水注を持っていき、花の正面から四季に応じて足し水をする。
十五 花台・床縁を拭く。
十六 布巾は花盆に載せて、そのまま持ち帰る。
十七 水注を持ち帰り、最後に挨拶をして辞する。
※ 明り口が右にくる陽の床では、花盆は右脇へ附けて持ち、陰の床では左に附けて持つ。また水注は口を向こうにして持つものである。
 最後に「平座敷手前の心得」として、床のない平座敷などの場所に、花を挿ける時の花手前について述べる。先ず、花を挿ける席に花台を置き、花器を花台に載せておく。このとき水は六・七分入れておくものである。そして水注を運び、次に花盆をもって出る。このとき、小型の水注であれば、花盆に載せて同時に持っていってもよい。以下の花手前は、平座敷床の花手前のそれとほぼ同様である。