1 花と道具
 未生という本質を感じとり、伐った草木に養いを施し、そして草木の水があがった後に挿花として席上に移す。このとき、その席は花となり、また花台敷板も花、花器も花、花留も花、水も花、鋏も花、挿ける姿も花、挿ける草木も花、こころも花となるのである。ここでいうところの「花」というのは、天地の間にある麗しきものの総名のことであり、則ちこのうえなく麗しき美なるものは花である。陰陽寒暖の教えを守り、天の道に素直に従う草木は、生き物の長である人より勝るところがあるといえる。よって挿花の席も、花のように清らかにしてこそ真なるものとなるのである。
 また、花器などの道具は正しく寸法を定めて用いる必要がある。つまり、天地に依るところの数に従って、正しく寸法をとらねばならない。天は二十八宿星をもって体と成す。すなわち陰陽の日・月と木・火・土・金・水の五星をあわせた七星は、東・西・南・北それぞれにあり、これを合わせて二十八宿星となる。また地の数である九に、四季であるところの四を掛けると三十六となる。よって地は三百六十度の元と成す。さらに天地人三才、陰陽五行、十干十二支、四季二十四節と、一より百八までの数より、「活の員」つまり生きた数員でもって寸法を定める。「活の員」とは(一・二・三・五・六・七・八・九・十・十二・十五・十六・十八・二十・二十四・二十八・三十・三十六・四十八・五十・六十・六十四・七十七・八十・九十・九十六・百・百八)の二十八ヶある数字であり、一方「死の員」は活の数字以外の八十ヶある数字のことである。
 一   天の陽数。万物の始まり太極。
 二   地の陰数。陰陽に分れた両儀。
 三   天地人三才の陽数。
 五   木火土金水の五行。
 六   地の数。万物を止め造化の巧を成す妙数。
 七   天の員。天星の七の数であり、陰陽七つの変り目。
 八   八卦。
 九   地員。陽数の最上。
 十   天員。一九の通数。
 十二  十二節。陰陽一回りの数。
 十五  七五三の員。注連の数。
 十六  天地の数。陰の八、陽の八の合数。地の九、天の七の合数
 十八  陰の九、陽の九の合数。極陰極陽。
 二十  地員二の大数。
 二十四 季の変わり十二節の変。二十四節。
 二十八 天の二十八宿星。
 三十  三才の大数。一ヶ月の定数。
 三十六 地員。地の九に四季を掛け合わせたもの。
 四十八 明中四十八刻の員。
 五十  五行の大数。
 六十  地員六の大数。
 六十四 八卦八卦けにして造化の妙数。
 七十  天員七の大数。
 七十二 四季の土用を現す数。
 八十  八卦、陰の八の大数。
 九十  陰陽合して九の大数。
 九十六 一時八刻昼夜陰陽。八分掛一廻りの合数。
 百   天員。太極一九通の大数。
 百八  百八煩悩。一時九刻陰陽十二時の合数。
 以上のような「活の員」で寸法を定めることで、道具も自然にかなうものとなるのである。未生流における道具類は、神仏の姿と同体であるといえ、従ってその取り扱いも正しく行う必要がある。
 以下に、花と道具に関して述べていくが、寸法で一尺は約三十センチメートル、一寸は約三センチメートル、そして一分は約三ミリメートルであるので、心得ておきたい。また指尺一つ目とは、約一五センチメートルである。さらに、この項にでてくる「陽の目一尺」とは、「陰の目一尺」を二辺とする直角二等辺三角形の一辺をいう。つまり√2(1.414)尺である。陰の目一尺は約三十センチ、そして陽の目一尺は約四三センチとなる。この陰の目と陽の目の比率(1:√2)は、掛け軸、違い棚、床間などにも用いられ、日本の構造美の基本ともなっている。