13 釣瓶
 釣瓶は井戸で水を汲むのに使うものであり、よって常に二個で一組のものとして用いる。この釣瓶を使って花を挿けるとき、「飾釣瓶」、「置釣瓶」、「井筒附の釣瓶」の三通りの使い方がある。
 「飾釣瓶」は釣瓶を床に二つ置き並べて使うものである。先ず、床の明り口の方に置く釣瓶は、「陽」として「角」を見せて置く。釣瓶を「角」に使って置けば、正面からみて三つの角が見えるので、すなわち奇数(陽数)の角をもつ陽性のものとなる。従って、陽性を現す床の明り口には、陽性の「角」の釣瓶を置くのである。
 いっぽう床柱の方に置く釣瓶は、「陰」として「平」に置く。釣瓶を平らに使って置けば、正面からみて二つの端が見えるので、すなわち偶数(陰数)の端をもつ陰性のものとなる。従って、陰性を現す床の床柱の方には、陰性の「平」の釣瓶を置くのである。
 このように床の明り口のほうには陽性の「角」の釣瓶を、そして床柱のほうには陰性の「平」の釣瓶をそれぞれ置き合わせて花を挿けるのである。花は釣瓶の向こうの角より挿ける。明り口が左(向かって右)にくる陽の床では、陽の釣瓶には陽(客位)の花を、そして陰の釣瓶には陰(主位)の花を挿ける。明り口が右(向かって左)にくる陰の床では、陽の釣瓶には陰(主位)の花を、そして陰の釣瓶には陽(客位)の花を挿ける。この飾釣瓶でもって花を挿けるときは、花台・薄板を用いる必要がある。ただし、陰陽和合に反するため、板床に薄板を使ってはならない。
 次に、「置釣瓶」は釣瓶を二つ重ね置いて使うものである。上の釣瓶は「陽」として「角」を見せ、下の釣瓶は「陰」として「平」に置く。天を始め物質の上方は陽性であり、いっぽう地を始め物質の下方は陰性であるためである。
 上(陽)の釣瓶には向こうの角より花を立姿にして挿け、下(陰)の釣瓶には手前の角より花を横姿にして挿ける。なお、この置釣瓶は床に置いて用いてはならない。置釣瓶の敷物としては、井戸に使う滑車や釣瓶縄を用いるものである。陽性である天円は左旋し、陰性である地方は右旋するものである。この釣瓶縄を時計回りに左旋(陽性)に用いたときには、上の釣瓶に挿ける立ち姿の花は主位(陰性)の花とする。一方、釣瓶縄を反時計回りの右旋(陰性)に用いたときには、上の釣瓶に挿ける立ち姿の花は客位(陽性)の花とする。下の花は主従関係で捉えると従であるので、この場合の主位・客位は上に挿ける花でもって考える。このように陽性の釣瓶縄には陰性の花を、そして陰性の釣瓶縄には陽性の花を挿けてこそ、陰陽和合なのである。
 最後に「井筒附の釣瓶」とは、井筒の後方の木に取り付けた滑車に釣瓶縄をかけて、釣瓶を上から吊るし、そしてもう一つの釣瓶を井筒の上に置いて使ったものである。このとき、二つの釣瓶を釣瓶縄で互いに結び、途中で後方の木にも絡みつかせることで上の釣瓶を安定させる。この井筒には寄井筒や、風流なしゃれ木や朽ち木の丸木井筒がある。
 「角」をみせた「陽」の釣瓶は上に吊り、ここには垂物の花を横姿にして挿ける。そして「平」にした「陰」の釣瓶は井筒の上に置き、ここには立姿の花を挿ける。実際の井戸では井戸より上に上げられた方の釣瓶は水が入っておらず空の状態になっている。従って、井筒附の釣瓶として用いるときにも、上の釣瓶の水が見えないように注意する。一方、下の釣瓶の水は四季に応じて足し水をする。さらに、挿けた花・葉・枝が釣瓶縄に掛からないように気をつける。なお、この井筒附の釣瓶は会席において用いるものである。
 最後に、寸法に関して述べるものとする。三通りある釣瓶の寸法として、先ず大のものは高さ七寸二分、板厚さ六分四厘、上辺六寸二分、底辺五寸二分、手一寸角にして上より一寸下って付け、外に出ないように定める。次に中のものは高さ六寸四分、板厚さ六分四厘、上辺五寸六分、底辺四寸四分、そして小のものは高さ六寸、板厚さ四分八厘、上辺五寸二分、底辺四寸二分に定める。また、井筒の寸法は、四方を一尺六寸、高さを九寸、木枠は直径二寸位に定める。なお、井筒附の釣瓶に用いる柱は、自然の木で風流なものを用いる。しかし程よい木がないときは、真っ直ぐの丸木で用いても構わない。この柱の高さは六尺四寸、車径五寸、厚さ一寸八分と定めるものである。