16 飾付
 花の道を古に辿ると、月の国(現在のインド・ネパール)の無量寿仏(阿弥陀仏)の時代にまで遡ることができる。また唐の国では、天皇氏・地皇氏・人皇氏の三人の君の頃に起こり、日本では御神の御代に桜の花を花瓶に移してより始ったものといわれている。したがって花の法格をしっかりと守って神仏に供えることが第一であり、そしてまた貴人のもてなしとしても行なわれるものである。
 上下の位に関係なく、人が草木を愛でるということは天地自然の道理である。草木出生のことを深く知り、天地人という三才の法格を守って花瓶に移し、花の道というものを極める。そうして、天も地も人も、全ては道に帰っていくのである。今から述べる飾り付けは、東山の銀閣寺におけるものを基本として、時節・場所に応じて風流に置き合わせるものとする。
 a 床 真行草飾付
 床の飾り付けには、真・行・草と三種類のものがある。先ず「真の床飾り」は掛物三幅対のものを用いて、真ん中は帝王・聖人・賢人もしくは神仏の像の掛物を掛ける。そして床の中央には卓を置き、この卓の上に香炉を置いて香を焚く。また香炉の後には火道具建(灰押・火箸)を、火箸で灰押をはさんで前後に立てて置き、香炉の手前には香をいれた香合を置く。卓の下には、細口の器を使って花を挿けるものである。そしてこの卓の左右には、真の花台で八角の花器(真の銅器)を用いて花を挿ける。さらに、大きい床に掛物を四幅以上用いる時には、花器をさらに二瓶増やして花を挿ける。このとき加える花器としては、薄端、広口、もしくは一重二重の竹器などを用いるものとする。
 「行の床飾り」は、大きくは真の床飾りと同様である。掛物の真ん中は仙人・名僧・賢君・相丞・大夫の掛物を掛ける。中央の卓の上には香炉だけを置き、このとき火道具建(灰押・火箸)や香合は略するものである。また卓の下に花を略して、代わりに火道具建(灰押・火箸)と香合の二種、または羽ほうきと香合の二種を置き合わせることもある。なお、この行の床飾りのときには、卓も形の変化したものを用いても構わない。そして卓の左右には、行の花台を用いて、その上に花器を置いて花を挿けるものである。このとき丈の高い花瓶であれば、花台を使わずに行の薄板を使ってもよい。しかし板床の場合は薄板を使ってはならないので、草の花台を使う。
 「草の床飾り」は正式な卓を使わず、平卓に香炉を真ん中にひとつ置いたり、また香盆の中央に香炉を置いて、その左右に火道具建(灰押・火箸)と香合を置き合わせたりして床飾りを行う。このときの盆は円形・四角形・長方形・小判形といずれを用いてもよい。また真・行の床飾りと同じように、左右には対の花器で花を挿けるものである。この草の床飾りのときは、草の花台か草の薄板を用いる。なお、竹花器を用いる時は対でなくとも構わない。
 b 押板 真行草諸飾
 人を中心とする人間賞玩のものである「床飾り」に対して、この「諸飾り」は仏前荘厳の追善法要の折の飾り方である。従って、掛物の真ん中は仏像、仏語、祖師の像や先祖の像のものを、一幅・二幅・三幅と掛けるものである。
 「真の諸飾り」は、押板の上に、中央には香炉を置き、その向こうには香匙を、香炉の前には香合を置く。そして、その左右には(鶴亀)燭台二基一対と、花瓶二基一対を飾るものである。この五つの仏具で飾る諸飾りを五具足飾りという。なお掛物を三幅掛ける時には、左右に脇卓と脇花瓶を置く。
 「行の諸飾」は、押板の上に、中央には香炉を置き、その向こうには花瓶一基を、香炉の前には香合を置く。そして、その左右に(鶴亀)燭台二基一対を飾るものである。
 「草の諸飾」は、押板の上に、中央には香炉を、その向こうには香匙を、香炉の前には香合を置く。そして、その左右に(鶴亀)燭台一基と花瓶一基をそれぞれ一基づつ飾るものである。なお、万事大略の時は、押板でなく平卓を使っても構わない。このときには中央に香炉を置いて、その左右に(鶴亀)燭台一基と花瓶一基を一基づつ飾る。これを三具足飾りという。掛物四幅以上掛ける時は、万事略して行なうものとされている。
 c 書院 真行草飾付
 書院とは、床の間の脇にあって、窓付きの張り出しのあるもので、この書院は古く書斎として使われていたものである。
 書院の真の飾り付けとしては、天井中央に喚鐘を釣る。そして床に近いほうの上手の柱には丸鏡を掛け、いっぽう下手の柱にはしゅび・鐘木を釣る。また地板の上には、水瓶・圧尺・印池・軸盆・硯・硯屏風・文鎮・唐刀・墨・水滴・筆架・筆筒・筆洗と、文房具類を置くものである。このとき水瓶には花を挿けても構わない。なお喚鐘がない時には、天井中央に丸鏡を釣り、しゅび・鐘木を外して、その代わりに如意・笏を掛け、また丸鏡のあったところには一角などを掛けてもよい。
 書院の行の飾り付けとしては、天井中央に丸鏡を釣る。そして上手の柱には如意を掛け、いっぽう下手の柱には羽箒を掛ける。また地板の上には、水瓶・硯箱・料紙箱を置くものである。さらに、軸盆・香盆・置香炉などを変化させて置き合わせても構わない。
 書院の草の飾り付けとしては、天井中央に釣舟、釣香炉もしくは釣香を釣る。また、秋の末より春の末までは、天井中央に風鈴などを掛けてもよい。この頃、座敷の外にも風鈴を掛けたりするのも趣がある。そして地板の上には、石鉢・硯箱などを置くものである。また小広口を置いて花を挿けたりしても構わない。しかし、このとき轡を用いてはならない。柱には、花器・丸鏡・金袋・歌袋・掛香・帯之物・南鐐鎖・鎖類・唐刀・楊枝筒などを掛けるものである。
 d 違棚 真行草飾付
 床柱を座敷の中心と考え、庭に近い方に床と書院があり、そして床柱より奥の襖の方に違棚がある。この違棚は書院造りが盛んとなった室町時代に出来たもので、その構造は多種多様である。
 違棚の真の飾り付けは、上下の棚に茶道具・香道具を置き、地板に石鉢などを飾って格式をもって置き合わせる。この石鉢は自然の山野の景色を室内に取り入れたものである。
 違棚の行の飾り付けは、真の飾り付けよりもくだけて置き合わせてよい。中央に花を挿けたり、また軸盆、香合、料紙箱や、食籠、骨吐、唐瓶、楊枝筒など食に関するものを置いたりとする。
 違棚の草の飾り付けは更にくだけて、料紙箱、硯箱、漢書、草紙本など文具に関するものや、さらに楽器を始め諸芸に用いる道具などを飾ってよい。
 新宅移徒の折には、火の気を避けるためにも違棚に香盆を用いてはならない。このような時には、火を克する水鳥の置香炉などを置くとよい。また香合も水の色である黒のものや、陶器のものを用いる。いずれにしても火の色である赤色のものを避けるべきである。
 e 茶の湯棚 飾付
 茶の湯棚の飾り付けの大旨は図の通りである。この他に必要な諸道具をいくつでも取り合わせて、趣よく都合に合わせて飾り付けて構わない。
 f 納戸 飾付
 衣服・調度類を納めておく部屋である納戸には、中央に冠を飾り、そしてその前に扇の末広や笏(しゃく)などを台に載せて飾る。笏とは、束帯着用の際に右手に持って威儀を整えたものである。また御装束・簾(すだれ)・緞子(どんす)の帳などを飾り付ける。東山の銀閣寺の納戸には、中央に具足、左に長刀、右に太刀などの武具が置き合せられていた。
 g 常之御座処の棚 飾付
 天皇や貴人が常に居るところの御座処には、まず御仏棚・神棚がある。そしてそこにある違い棚には、主人の好みで茶器類をはじめ、煎茶道具、酒器、菓子器、御楽器、諸芸に用いる道具などが、趣よく置き合わせられている。
 h 広縁 飾付
 広縁は部屋の外側にある広い縁側のことである。この広縁には氈毛・豹や虎の皮などを敷いておく。そして花器は、掛け花器・置き花器と、花台と共に種々に取り合わて用いるものである。また、水次・鋏・布巾・花留を盆に載せて置き合わせる。さらに、庭に咲く麗しい花を桶に養っておく。この他には、畳床机・椅子・くつ・上草履・などを置き合わせ、杖・笠なども掛けておく。風鈴・風音・釣香炉・釣香・釣燈篭などを釣ってもよい。
 i 泉殿の棚 飾付
 泉殿は寝殿造りに設けられた、庭の池・泉水の上につき出した建物である。室町時代に確立した書院造りに対して、寝殿造りは平安時代のものである。この泉殿にある棚の飾り付けとしては、馬上盃・食籠・水瓶などの食具類のものや、さらに鏡台・洗顔の道具などを置き合わせるものである。馬上盃は馬上で酒を飲む盃のことで、「馬上は七分、船中は八分、座敷は十分に注ぐ」ものとされている。さらに、ここには風炉・釜・天目茶碗などの薄茶・煎茶道具を置き合わせてもよい。泉殿における花としては、小さい器に花を挿けたり、また植木鉢を置いたりとする。花は時節・来客の状況に応じて趣きよく取り合わせるものである。