2 床
 床柱より向かって右にある床の間は陽の床である。この陽の床には、花の「用」が明り口に向くように陽の花(客位の花)を挿ける。いっぽう、床柱より向かって左にある床の間は陰の床である。この陰の床には、花の用が明り口に向くように陰の花(主位の花)を挿ける。
 先ず、床に花を一瓶だけ挿ける時には、その花台は左右においては床の中央に、そして前後においては一寸ほど奥に据え置く。このとき、掛物に画かれた花を挿けることは避け、花で掛物の名・印・字を遮ってはならない。もし遮るようであれば、花は床柱のほうへ寄せて置くものである。また、床が板床であれば薄板を用いてはならない。というのも、板に板を重ねることは、間に空がなく陰陽和合に反するからである。さらに、名のある花器や掛花器を使う場合には、必ずそれぞれ花台や垂揆を使うべきである
 次に、床に花を二瓶挿ける時には、陽の床であれば、掛物の軸先(明り口の方)には客位の花を、そして軸留(床柱の方)には主位の花を、それぞれ対にして挿ける。いっぽう陰の床は、これと逆の扱いでもって花を二瓶挿けるものである。
 掛け物に依る心得として、高名の方の筆、または王侯の書画などの、仰ぐべき掛け物を床に掛けたときには、花台・敷板を床の中央に据えるのではなく「軸付の扱い」をするものである。この「軸付の扱い」とは、掛け物の軸先と軸留を垂直に下したところより外に、花台・敷板を据えることをいう。しかし、このような仰ぐべき掛け物であっても、横物のものであれば、花で軸を見切るようなこともないので、あえて「軸付の扱い」にする必要はない。明り口のほうを軸先、いっぽう床柱のほうを軸留という。陽の床の場合は、軸先に挿ける花は陽の花(客位の花)を、そして軸留に挿ける花は陰の花(主位の花)とする。なお、神仏の像などは、誰が書いたものであっても、花は床の中央に据えて挿けてもよいとされている。しかし、このときも神仏の面体に枝葉がかからないように注意することが大切である。
 また、掛け物に画いてある花を挿けてはならない。掛け物の賛に花の辞があれば、その花を挿けてもならない。多彩な色調の掛け物には、白い花か葉物などを挿けるとよい。表飾の色と花がさし合うことを避けるためである。人物や神仏の画かれた掛け物であれば、その面体に花がかからないように注意し、画いた者の落款や名印も隠れないように注意する必要がある。
 掛け物を一幅のみ掛けるときは、花を中央に一瓶挿けるか、もしくは左右に二瓶挿ける。二瓶挿けるときには、花器は出来るだけ対のものを用いたほうがよい。また掛け物を二幅掛けるときは、花を中央に一瓶挿けるか、もしくは掛け物の前にそれぞれ二瓶挿ける。掛け物が三幅の時は、花を掛け物の間にそれぞれ二瓶挿ける。さらに、掛け物が五幅であれば、掛け物の間へ二対の花器を用いて合わせて四瓶挿ける。このように数多くの花器に花を挿ける時には、同じ花を挿けるのではなく、それぞれ種々に取り合わせて挿けるべきである。また、掛け物の書・画は共に時候を考え、季節に合うもの、その時の行事に相応しいものを、客のこころを察して掛けるものとする。
 さらに床の花として、以下に詳しく述べるものとする。床に花を挿けるときには、花台・薄板の掃除を丁寧に行い、枯れ葉・虫食い葉・蜘蛛の巣とぢ葉を取り去って瓶中を綺麗にし、陰陽の床に応じて花を挿けるものである。
 先ず陽の床は、明り口が向かって右(そのものの左)にくる床であり、主人が座ったところからみて左の方にしつらえてある床と捉えることができる。この床は陽性をもつ床であるので、上客より左旋(時計周り)に座っていく。この陽の床に挿ける花は、陽(陽中陰)の客位の花である。花全体は左旋する陽であり、一方この花の体は右旋にためて陰に基づく、つまりこの花は陽中陰の姿である。
 次に陰の床は、明り口が向かって左(そのものの右)にくる床で、主人が座ったところから右の方にしつらえてある床である。この床は陰性をもつ床であるので、上客より右旋(反時計周り)に座っていく。この陰の床に挿ける花は、陰(陰中陽)の主位の花である。花全体は右旋する陰であって、一方この花の体は左旋にためて陽に基づく、つまりこの花は陰中陽の姿である。花の体が右旋すれば、その花全体は左旋する。逆に、花の体が左旋すれば、その花全体は右旋する。この右旋左旋の働きは、陰陽寒暖の和合するところである。