4 花器
花器は、真の花器(銅器・金)、行の花器(土器・土)、草の花器(竹器・木)と三通りに分けることができる。この真の花器のひとつである、青磁の花器や唐金の器に花を挿けるときは、露を注いではならないとされている。露を注ぐとは、草木に直接水を打つ事である。このような金属類のものに、湿気を与えれば錆びてしまうからである。しっかりと草木に養いを施し、四季に応じて水を注ぐならば、自ずと花は潤うものである。
寸銅の花器に注ぐ水の高さとしては、春・秋には叉木より口までが九分となるように、そして夏には十分に、暑中には十一分に、また冬には八分に、寒中には七分までの高さとなるように、季節に応じて花器に水を注ぐ。このように四季の寒暖に応じて足し水をすることで、水は「死の水」から「活の水」と変化するのである。水を「死活」で捉えたとき、花を挿けた方の水は「活の水」であり、花のない方の水は「死の水」である。よって水の死活をとるためにも、花器の口全部を使って花を挿けてはならない
「据物」とは、口が広くて底の浅い平たい花器、すなわち盥・馬盥・広口・水盤などのことである。広口や水盤は花台に載せて、もしくは薄板を敷いて床へ置いて使う。しかし、盥・馬盥・手桶などの「輪の入りたる器」とよばれる器は、これを床に用いてはならない。「輪の入りたる器」は床脇に、すなわち違い棚の下(台目)などに、花台を使うことなく敷板を敷いて用いるのである。ただし、「真の花器」である銅器や、「行の花器」である土器のもので、品格のある盥形のものであれば、薄板を敷いて床に置いても構わないとされている。
先ず広口の寸法としては、三通りのものがある。長さ陽の目一尺八寸、幅陰の目一尺八寸、深さ陰の目四寸八分、板の厚さ陰の目八分の大きい広口。長さ陽の目一尺六寸、幅陰の目一尺六寸、深さ陽の目二寸八分、板の厚さ陰の目六分八厘の中の広口。長さ陽の目一尺二寸、幅陰の目一尺二寸、深さ陰の目三寸六分、板の厚さ陰の目六分四厘の小さい広口。以上の三通りの広口は一間の床に用いることができるが、これ以上の寸法が大きいものになると床には用いることができない。またこれらの寸法以外に、大小種々に広口の寸法を定めても構わない。ただし、このときも「活の数」でもって行うことは言うまでもない。
次に馬盥や盥の寸法も、三通りのものがある。馬盥の寸法は、長さ、幅、深さ、板厚ともに、大・中・小と広口の寸法に依るものとし、その形は小判形とする。いっぽう盥は、直径一尺八寸、深さ三寸六分の大のもの、そして直径一尺六寸、深さ二寸四分の中のもの、また直径一尺二寸、深さ二寸四分の小さなもの、と三通りである。
「曲のある花器」を用いるときは、特に花の取り合わせが大切となる。花器自体に曲という変化があるものであり、これに挿ける花は素直なものがよい。曲に曲を合わせれば「和合」が生じることはなく、よって曲には素のものがあってこそ陰陽和合である。曲の花器を古木と見立てるならば、そこに挿けるものは古木から生じた素なる若枝であるといえる。草花であっても、そのような面持ちでもって挿けることが大切である。
「貴い御方の御銘ある花器」を扱うときには、必ず花台に載せて床に置き、特に大事に扱わなければならない。掛け花器の場合には、垂揆に掛けて床の中央に据えて用いる。また竹花器であれば、先ず花器全体を水につけておき、花器全体によく水を含ませておく。もし乾いた竹花器に内から水を入れてしまえば、内より膨張して割れてしまう。そのような事のないように、内外ともに水を含ませておくのである。そして、よく拭いてから風のあたらないところに置き、内外ともに徐々に乾かしていくことが大切である。乾いていない竹花器をそのまま風にさらしてしまえば、内側が湿っているのに外側だけが乾いていき、その結果、収縮して割れてしまうこともあるからである。この「貴い御方の御銘ある花器」を使うときの花としては、位の正しい草木を挿けるものである。
また「拝領の花及花器取り扱いの心得」として、貴人より拝領した花は、枝葉を慎重に扱って挿けなければならない。誤って折ってしまうような事もあるので、むやみにためることは行わない。挿花の法格を守り、そして万枝に支障なく、勢いがあるように徳相のこころでもって挿ける。掛花器に花を挿ける場合は、垂揆を使って床の中央に掛け、いっぽう置花器に挿ける場合は、花台に載せて床の中央に置く。いずれにしても掛物は外しておかなければならない。気を清めるために、書院には釣香炉に香を焚いたりしてもよい。また、貴人より拝領した花器や、高位の御方の銘がある花器も、これと同様に慎重に取り扱うものである。
編んでつくられた籠花器(手付籠・耳付籠・掛籠)は、旧暦の二月中旬より十月上旬まで用いることとされている。現在の新暦では三月中旬より十一月上旬の春から秋の間である。軽い感じのする「籠花器」には、重い感じの木物を挿けても、その姿が映えることはない。よって、籠花器は草花が生じる時候に使うというのである。しかし、「籠花器」に調和する花材のものであれば、厳密にその時候は問わなくてもよいだろう。「置籠器」に合う花材としては、牡丹、芍薬、百合、紫苑などである。また「掛籠器」は、線の細い蔓物などがよく合う。とにかく籠花器に挿ける草花は、籠の大小に応じてバランスよく挿けるものである。
「草木取り合せ挿け方の心得」として、置花器に三種類挿けるときには、体につかう草木の丈が五尺も伸びる出生のものであれば、用には三尺以上伸びない出生のもの、そして留には一尺五寸以上伸びない出生のものを使う。このように、草木の出生に応じて取り合わせることが肝要である。広口などの据物に九種・十一種と使って、株を分けて挿けるときには、水の死活をしっかりととって、花器を自然にある水面と見立てて草木を取り合わせる。いずれにしても、草木の出生、大小の姿、また気品、花葉の美醜を見極めて取り合わすものである。
花器には掛けて用いる「掛花器」がある。この掛花器は「垂揆」に掛けて使う。垂揆は中央に長い溝を持ち、掛花器を上下自在に掛けることが出来るようにしたものであり、その大きさには大中小とある。床に垂揆を掛けるための「掛釘」は、床より指尺六つ目(約九十センチ)に、そして畳よりは七つ目に定める。しかし花を挿けた姿が、目の高さからして高からず低からずにするため、掛ける花器によっては若干の変化が必要である。また、床柱に掛け花を挿ける時には、花の露が床縁へと落ちるようにする。そして、花で掛け物を見切らないようにするため、花姿の用の枝先は心もち前方にふり出して挿けるものである。また一重切の掛花器には横姿の花を挿け、二重切の掛花器には上口には横姿を、下口には立姿(半立姿)を挿ける。
掛け物を二幅・三幅と掛けるときには、床柱に掛け花は無用である。また置き花が二瓶もあるときも、掛け花は挿けない。ただし、床に掛けた掛け物が季節感のない二幅対のものであれば、その真ん中を季節の場所と定めて、垂揆を掛けて掛花器に時候の花を挿けたりしてもよい。また季節感のない三幅対のものであれば、中幅の掛け物を外して、その代わりに垂揆を掛けて掛花器に花を挿ける。そして、掛物と花を合わせて三幅対のものと捉え、このように季節を床へと移して風雅を楽しむこともある。床以外に掛け花を挿ける時には、「掛釘」がなければ、「長押(なげし)」より垂揆を掛けて掛花器を使うとよい。
以上、花器に関することを述べてきたが、最も大切なことは、花の姿と花器が相応することである。花の寸法としては、寸渡などの置花器に挿ける花は、器の高さの二倍半と、二倍より少し高くして挿ける。そして、寸渡の口の寸法分程度の枝葉を下方より取り去る。これは、前にも述べた「体割りの法」から割り出したものである。また盥・馬盥・広口・水盤・等の据物に挿ける花の寸法としては、花器の奥行き(差し渡し)を一分とし、花の寸法を二分とするのである。このとき花全体では、差し渡しの三倍となる。そして、差し渡しの三分の一程度下より枝葉を取り除く。この据物の場合は、留下の根締り、用の腰が常よりも少し高くなってもよい。以上のことは基本のものとして、「花の丈高くして移ることあり、低くして応ずる事あり」という言葉がある。つまり花の出生、花器の変化に応じて、その花の丈も変化するべきものである。