未生流の花 竹

冷え枯れた美 

 

竹花入(立鶴)

 

二本の足で凛と立つ、鶴のかたちを象った「立鶴」の竹花入。
竹を花入れとする文化は、 日本独自のものとして生まれた。

銅や陶磁器の「硬い」文化でなく

冷え枯れた、柔らかい文化である。





依代(よりしろ)としての竹

神話時代、 天の岩戸に籠もってしまった

天照大神を引き出すときに使われたのは竹の笹であった。
このとき、天香具山に生える笹でもって、神楽が舞い踊られた。
[依代 - 樹木や自然石など、神霊が出現するときの媒体(物体)となるもの。]


竹の依代(よりしろ)には、自然の神気が舞い降りてくるといわれている。



談山神社

 

 

 

盛り物(籃胎漆器)


縄文時代、竹で編んだ籠に

漆を塗った器(籃胎漆器)が、日常的に用いられた。

正倉院(天平時代)には、散華供養に用いる籠が保存されている。
散華とは、蓮の花びらを撒き散らすことで
いけばなの起源のひとつでもある。


 

 


 



銅 祭器(鼎 爵 尊 觚)


紀元前の「銅器」は、鼎など神に捧げる祭器の要素が強い。
そして宋・元(AC1000~ 1300)の時代に、祭器から花瓶へと移り変わる。
これと同時に、青銅器の美を目指した、青磁の花瓶が生まれる。

鎌倉、室町時代初期の日本は
唐物である古銅・青磁を愛でる
完全な美を求める唐物主義が主流であった。

 

 

 



「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」


満開の桜、満月と
完全なものは美しい。

しかし、日本人の心にあるものは。

散るからこそ美しい桜

枯れてこそ美しい竹


しだれ桜 - 竹花入

(月の夜の法然院 - 龍笛の響きのなかで)

 


 



 


唐物主義から、
日本古来よりの冷え枯れた、柔らかい文化への回帰。
竹花入に花を生ける。
歴史文献上初めて、竹花入が登場するのは室町時代のこと
いけばなの祖である、相阿弥によってである。


竹三種(夜長・園城寺・尺八)


安土桃山時代、
千利休は、豊臣秀吉の小田原攻めに同行し、
陣中の中にあって、茶席を催す。
このとき、小田原の韮山の竹でもって
3本の竹花入(夜長・園城寺・尺八)がつくられた。

夜長  (兵の竹枕を見立て、陣中の夜長をあらわした。秀吉の世が長久であることを願って。)
園城寺 (弁慶が転がし生じたという園城寺の鐘のヒビを見立て、ひび割れした竹花入を「笑み」として用いる。)
尺八  (利休が最も大切にしていた竹花入で、利休処罰の際、秀吉に打ち割られる。)






多種多様に、竹の文化が展開していく江戸時代

未生流の竹花入は 基本21種類(真・行・草)ある

 





真の竹花入 →

○ 師から学んだ法を、さらに次の弟子へと伝承していく姿を現す「二重獅子口」
○ 人を渡し導く法の橋をかたどった「橋杭」
○ イザナギノカミ(陽)とイザナミノカミ(陰)という、男女一対の二神をかたどった「二柱」
○ 天円地方の和合の姿を現す、上下同寸の「手杵」
○ 清濁をあわせ飲み大海に通じる「鮟鱇」
○ 上半分を「空」下半分を「風火水地」に、五大を現し、宇宙の本体をかたどった「寸渡」
○ 獅子のような気高い口が開いて、法が説かれていく様を現した「獅子口」

 

 

 





行の竹花入 →

○ 鰐(わに)のような細長く狭い口が三つ開いている「三重鰐口」
○ 刺(内なる醜)を抜き取る道具をかたどった「けぬき」
○ 弓を射たり遠方を見渡すのに、材木を高く組んだ櫓である「二重櫓」
○ 上筒が下筒より長く、七福神の一人で長寿を司る寿老人の姿を現す「寿老」
○ 北方より渡ってきて日本で越冬する、丹頂鶴よりやや小さい「真鶴」
○ 邪の気を中に吸収して浄化させる働きがあるとされる、瓢箪の形をくり抜いた「ひさご」
○ 鰐(わに)のような口が開けられた「鰐口」
仏閣のお堂正面(神社の社殿にあるときも)に吊り下げられ、 参詣者が綱を振って打ち鳴らす、円形の大きな鈴のことを鰐口という。その鈴の下部と側面に、鰐のような細長く狭い口が開けられていることから 「鰐口」と称された。

 

 






草の竹花入 →

○ 五つの口が開けられている「五重切」

○ 神社など聖域の周りを樹木や石柱を巡らして囲み、常世と現世の境界を引いた玉垣を見立てて
 寸渡の花入れに円をくり抜いた「丸玉垣」
○ 宮殿を飛び越えることができない雁が通り抜けられるようにと、秦の始皇帝が空けたという伝説の穴を
 「雁門」といい仏門を現すこともある。上部に抜き通した穴をもつ「雁門」
○ 上筒が下筒より短く、虚無僧がかぶる笠をかたどった「天蓋」
○ 頭に皿を背中に甲羅をもつ、河童の姿をかたどった「水虎」
○ 樹木をするすると登っていく、猿の姿を想わす「登猿」
○ 旅人が旅の途中で、手持ちの花入れを枕代わりに使ったことに由来する「旅枕」

 

 

竹の種類としては、胡麻竹 亀甲竹 真竹 すす竹 しゅみ竹 → などがある

 

 

 




真鶴(しゅみ竹)


土のなかで自然に生じた竹の「しみ」を趣味(しゅみ)
「趣きのある美しさ」として愛でてきた
柔らかい竹の文化

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